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産経新聞で、「流行語大賞」について解説

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「流行語」を考えた 
言葉そのものも終焉か
「流行語」という言葉が終焉を迎えつつあるようだ。年末恒例の「新語・流行語大賞」も、このところは発表されるたびに「流行語」への賛否が語られ、今年は選考委員側も「そもそも流行語とは何か?」という根源的な疑義を呈した。また、インターネット、そしてスマートフォンの普及で、言葉の「世代間の差」や「使用するサービスによる差」が明確になりつつある。果たして今、「流行語」は、どのような場所に立っているのか。

 ■かつては「新人類」「バブル経済」

その年に話題となった言葉に贈られる「現代用語の基礎知識選 ユーキャン新語・流行語大賞2017」。1984年に始まった“老舗”の賞が12月1日に発表され、年間大賞に「インスタ映え」と「忖度(そんたく)」の2語を選んだ。

自由国民社の「現代用語の基礎知識」に収録する30語を、同社と同社が委託した事務局が大賞候補としてノミネート。今年は5人の選考委員が、この中からトップテンと年間大賞を選んだ。

同賞は、「流行語」という概念を社会に定着させてきた。同賞が選んだ「新人類」(86年・流行語部門金賞)や「バブル経済」(90年・流行語部門銀賞)、「Jリーグ」(93年・年間大賞)などの流行語は、その年の世相を鮮やかに映し出し、大勢の人の口の端に上った。

しかし、近年はその選考に疑義を呈する声が相次いでいる。「トリプルスリー」(15年年間大賞)と「神ってる」(16年年間大賞)は当時、野球ファン以外にはあまりなじみがないと指摘された。また、「アベ政治を許さない」(15年トップテン)や「保育園落ちた日本死ね」(16年トップテン)など、いわゆる左派の人やマスコミが使ったキーワードが選ばれ、「偏向している」などと物議を醸した。

 ■そもそも流行語とは…

「そもそも流行語とか、新語というのは、一体なんだったかなぁ…ということを自分自身考えてしまうような、そんな1年間だったかなと思います」

東京都内のホテルで開かれた「新語・流行語大賞」発表会。選考委員の女優、室井滋さんは、率直な疑問を口にした。

「ネットから生まれ、そしてネットで消費されていく言葉というのも多いなと思いました」

同じく選考委員で歌人の俵万智さんは、インターネットの普及に伴い、以前と比べて言葉の“賞味期限”が短くなったと指摘。

ほかの選考委員も今年は「流行語の概念」を改めて問い直したことを明かすコメントを発表している。

 ■「紅白」と同じ道に?

このことは、大勢の人に共感をもって迎えられる言葉が出てくることの難しさを意味しているのかもしれない。

「最近の流行語には、『これぞ!』というものがありません」と指摘するのは、上智大の碓井広義教授(メディア文化論)だ。

「(選ばれるのは)めったに耳にしない言葉や、一部の人しか使っていない言葉のように思える年もあります。多くが流行語というより、いわば『今どき語』です」

今日的な言葉ではあるが、広く使われた言葉ではない、というのだ。

「そもそも、『流行語』の定義自体があいまいになっているのでは」

碓井教授によると、言葉を広める媒体はこれまで、テレビや新聞、雑誌などのマスメディアに限られていた。しかし、ネットの普及が状況を一変させた。とりわけスマホとSNS(会員制交流サービス)の普及は「流行」を分散化し、使う言葉の「世代間の差」を強めたという。

碓井教授は、そのことを「『流行語』は、NHK紅白歌合戦やレコード大賞がたどったのと同じ道を歩みつつある」と表現する。

「かつての紅白やレコ大は、見ればその1年間の音楽状況を振り返ることができましたよね。ただ、最近は人々の趣味嗜好(しこう)が分散してきて、『この1曲が今年の曲だ』といえなくなりました。良くも悪くも、時代の流れといえるのではないでしょうか」

 ■検索=みんなが選ぶ?

その一方で、対照的といえる光景が、12月6日に東京都内で開かれた「Yahoo!検索大賞2017」の発表会で見られた。

「スマートフォンを使った検索は、国民のみなさまの能動的な意思が表れている。特定の審査員がいて決めるのではなく、みんなが決めるアワード(賞)なのです」

同賞を主催するIT大手ヤフーの片岡裕・執行役員メディアカンパニー長は、自信たっぷりに語った。

同賞は特定の選考委員が決める「新語・流行語大賞」とは異なり、1月1日~11月1日の1日平均検索数を調査し、前年比で最も急上昇した人物や商品、言葉などを表彰。14年から始まった新しい賞だ。

同社の宮沢弦・上級執行役員メディアグループ長は「その年に最も検索された方というのは、その年を表すだけではなく、日本を代表する活躍をされた方と言うのにふさわしい」とあいさつ。この言葉を裏付けるように、会場には華やかなメンバーが集まった。

大賞に輝いたお笑いタレント、ブルゾンちえみさんに人気俳優の高橋一生さん。勢いのあるアイドルグループ「欅坂46」に、人気アニメ「けものフレンズ」の声優、尾崎由香さん。また、ノーベル文学賞に決まった英作家、カズオ・イシグロさんもビデオメッセージを寄せた。

一方、「新語・流行語大賞」は芸能人の欠席が相次いだ。授賞式に出席すると「一発屋」で終わるという、同賞にとって迷惑なジンクスまで広まり、賞そのものの定義づけが岐路に立たされている。

 ■忖度は「三冠王」

この点をみると、今年は「新語・流行語大賞」より「Yahoo!検索大賞」が注目を集めたといえるが、このことについて、碓井教授は「時代の変化を物語る、象徴的な出来事だ」と指摘する。

「大勢の人がネットで検索をしたということは、それが流行であるという客観的な数字の根拠があるということ。ある種の説得力があります」

ただ、碓井教授は「ネットの世論=現実の世論ではないことを忘れてはいけないと思います」とクギをさす。

この指摘は、新語・流行語大賞の選考委員である俵さんの、「ネットで充実するということと、現実の世界で充実するということが、どれくらい離れ、どれくらい重なっているのかも考えさせられました」という言葉にも重なる。

ところで、ヤフー検索大賞の「流行語部門賞」は、「新語・流行語大賞」と同じく「忖度」だった。三省堂が12月3日に発表した「辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2017』」の大賞も同じ結果だった。

有識者にネット世論、そして言葉のプロ。この3者の意見が一致したという意味で、「忖度」は確かに、今年を代表する言葉だったといえるのかもしれない。

 ■「マ?」「まじ卍」「ンゴ」

一方、ブログ、ライン、ツイッター、インスタグラム…。インターネット上のそれぞれのサービスごとに言葉は多様化している。これに伴い、独自に“進化”した言葉を表彰する「流行語大賞」自体も増えている。

例えば、07年に始まった「ネット流行語大賞」は、ネット上で話題となった流行語を投票形式で決める賞。これまで「※ただしイケメンに限る」(09年・金賞)や「ステマ」(12年・金賞)などが選ばれており、一部のネットユーザー以外は聞いたことがなさそうな言葉が並ぶ。今年の金賞は任天堂の人気ゲーム機「Nintendo Switch」だった。

また、女性向けエンタメ情報サイトが毎年発表する「ギャル流行語大賞」は、今年の1位に「マ?」を選出した。「マジ?」を簡略化した言葉だという。

さらに、女子中学生・女子高生の流行語を選ぶ「JC・JK流行語大賞」という賞も。かわいい、すごい、調子がいいなどを感覚的に表現する「まじ卍」や、語尾に付けることで語感が良くなるという「ンゴ」などが受賞した。このように、世代やグループに特化した賞も続々登場している。

碓井教授は「『活字離れ』と当たり前のように言われますが、逆にネットのおかげで文字に触れるケースが増えているのも事実。これまでとは違う意味で、言葉がとらえ直される時代が来ているのではないでしょうか」と話している。【文化部 本間英士】

(産経新聞 2017年12月11日)

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