週刊テレビ評
坂元裕二脚本「anone」
フェイクをテコに家族、生き方問う
広瀬すず主演「anone(あのね)」(日本テレビ系)が、回を重ねるごとに面白くなっている。
主な登場人物は5人だ。アルバイトをしながら、ネットカフェで寝泊まりしている辻沢ハリカ(広瀬)。小さな印刷会社を経営していた夫と死別し、現在は法律事務所の事務員をしている林田亜乃音(田中裕子)。夫や息子のいる家を出て、アパートで1人暮らしをしている青羽るい子(小林聡美)。カレー屋をしていたが、医者からがんで余命半年と言われた持本舵(阿部サダヲ)。そして林田印刷所の元従業員で、今は弁当屋で働く中世古理市(瑛太)である。
亜乃音と理市はともかく、5人は元々無関係だった。ある日、亜乃音が印刷工場の床下に隠された、大量の1万円札を見つける。しかもそれは偽札だった。その「大金」がきっかけとなって、出会うはずのなかった彼らがつながっていく。これまでに少しずつ、それぞれの過去と現在がわかってきたが、まだまだ謎だらけだ。
脚本を書いたのは坂元裕二。松雪泰子主演「Mother」(2010年)、満島ひかり主演「Woman」(13年)に続く、「母性」をテーマとした3作目だ。しかし広瀬は当然のことながら松雪や満島のような「母親」そのものではない。無意識ながら母性を探し求める、いわば「さすらい人」だ。そして今回、キーワードとなっているのが「フェイク(偽物)」である。
このドラマには偽札だけでなくさまざまなフェイクが登場する。ハリカは森の中の家で、祖母(倍賞美津子)に可愛がられて暮らした記憶を持つ。しかし実際にはそこは施設であり、虐待を受けながら生きていたのだ。その記憶は自分の心を守るためのものだった。
亜乃音には自分が産んだ子ではないが、19歳で家出した娘、玲(江口のりこ)がいる。大事に育ててきた娘と離れてしまったことにこだわっている。また、るい子は夫や息子と心が通わない。高校時代に望まぬ妊娠をして、その時に生まれなかった娘の姿が見える。セーラー服を着た幻影と会話することで自分を保ってきたのだ。さらに妻子のいる理市も、玲と彼女の息子が住む部屋に通っている。彼にとっての家族とは何なのか。
「偽物」に目を向けることで、逆に「本物」とか、「本当」とされるものの意味が見えてくる。また「偽物」と呼ばれるものが持つ価値も浮かび上がってくる。それはフェイクニュースのような社会問題とは違い、個人にとっての価値や意味だ。現代の親と子、夫と妻、そして生き方そのものさえ、フェイクという視点から捉え直す。坂元裕二の野心作であるゆえんだ。
(毎日新聞 2018.02.08)