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Channel: 碓井広義ブログ
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問題作「anone」 偽物と対比 物事の本質を問う

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北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、ドラマ「anone」について書きました。


問題作「anone(あのね)」
偽物と対比 物事の本質を問う
今期ドラマの中で一番の問題作、それが「anone」(日本テレビ―STV)だ。主演は広瀬すず、脚本が坂元裕二。人気女優と有名脚本家の組み合わせは、それだけで話題になるはずだった。しかし、テレビ業界も視聴者も戸惑っているようだ。一体このドラマは何なのか、どう見たらいいのかと。

主人公は親と離れて育った、宿無しのハリカ(広瀬)だ。他の主要人物として、印刷所を営んでいた夫と死別した亜乃音(あのね 田中裕子)。心の通わない夫や息子のいる家を出た、るい子(小林聡美)。医者からがんで余命半年と宣告された、元カレー屋の持本(阿部サダヲ)などがいる。それまでバラバラに生きていた彼らが、捨てられるはずだった大量の偽札をきっかけに知り合い、今は亜乃音の家で不思議な合宿生活を送っている。しかも閉鎖した印刷所の元従業員、中世古(瑛太)に引っ張られて本格的に偽札を作ろうとしているのだ。「よくわからないドラマ」と思われても仕方がないかもしれない。

このドラマには偽札だけでなく、さまざまなフェイク(偽物)が登場する。ハリカは祖母(倍賞美津子)に可愛がられて暮らした記憶を持っていたが、本当は祖母ではなく施設の管理者で、虐待を受けながら生きてきた。偽の記憶は自分の心を守るためのものだったのだ。亜乃音には19歳で家出した娘、玲(江口のりこ)がいる。自分が産んだ子ではないが、娘と離れてしまったことをずっと悔やんできた。同時に、赤の他人であるハリカに母親のような感情を抱いているのも事実だ。

るい子は高校時代に望まぬ妊娠をしたが、その時に生まれなかった娘の姿が見える。セーラー服を着た幻影の娘と会話することで自分を保ってきたのだ。持本もまた余命を知ったせいで、これまでの人生が意味のあるものだったのか、わからなくなった。さらに妻子のいる中世古も、玲と彼女の息子が住む部屋に通う二重生活を送っている。彼にとって本当の家族とは何なのか。

脚本の坂元は、物語の中にいくつもの「偽物」を置くことで、その対極に位置するはずの「本物」や「本当」の意味や価値を問いかけている。つまり物事の本質を捉え直そうとしているのだ。その対象は親と子、家庭、仕事、愛情、命、生き方にまで及んでいる。果敢な野心作だが、いい意味で独特の暗さや重さもあり、広く万人受けするタイプの作品ではない。しかし最も気になるドラマ、目が離せないドラマであることは確かだ。

(北海道新聞 2018年03月06日)

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