なぜ芸能人呼ぶ?TV局入社式
「すごいぜ、うち」 視聴者、食傷気味
テレビ局や大手企業の入社式に今年もさまざまな芸能人が登壇し、そのことがニュースにもなった。テレビ局では慣例化し、視聴者には食傷気味の感も。その一方で、この春は初めてネット放送局の入社式に芸能人が姿を見せた。これは、何を意味するのだろうか…。
芸能人登場はステータス
237人の新入社員から黄色い歓声があがった。服飾雑貨大手のサマンサタバサジャパンリミテッド(東京都港区)の入社式に、俳優の新田真剣佑(まっけんゆう)さん(21)がサプライズ登場し、頬を紅潮させた新入社員らにあいさつしたのだ。
新田さんは同社のCMキャラクターを務めており、広報担当者は「新入社員に喜んでもらうため、入社式には10年以上前から、その時々でご縁のある芸能人をお呼びしている」と明かす。
芸能人を入社式に呼ぶことは、企業にとってステータスのひとつになっている。上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)は、「会社の内部イベントに人気芸能人が登壇することで報道陣を集め、大手企業らしさを演出できる」と指摘。さらに「芸能人を呼ぶことができる会社に対し、新入社員の胸に『すごいぜ、うち』という社員としてのプライドが生まれる効果がある」と話す。
碓井教授によると、その効果を最大限に利用し続けているのが、芸能界と密接な関係があるテレビ局だという。
愛社精神
放送業界の入社式は、芸能人の参加がもはや「慣例」化している。今年も日本テレビを除く在京キー局とNHKで、それぞれの番組に出演する芸能人が姿を見せた。
テレビ東京では、放送12年目のバラエティー番組「モヤモヤさまぁ~ず2」(日曜夜6時半~)を出演するお笑いコンビ「さまぁ~ず」。担当者は「テレビを通して見ていた出演者と間近で接することで、新入社員にテレビマンになる喜びと責任を感じてもらいたい」と話す。
TBSテレビでは、嵐の二宮和也さん(34)。新入社員にエールを送るとともに、主演の日曜劇場「ブラックペアン」(22日夜9時スタート)をそつなくアピール。テレビ朝日では、新ドラマ「未解決の女 警視庁文書捜査官」(19日夜9時スタート)から、女優の波瑠(はる)さん(26)らが入社式に現れた。
芸能人が登場する入社式が春の風物詩になっていることについて、ネット上では「調子に乗っているとしか思えない」「うらやましがれってこと?」などの声も挙がっているが、局側にとっては、新入社員に対して愛社精神を育むパフォーマンスができるとともに、出演番組の宣伝もできるとあって一石二鳥。今後も「テレビ局の入社式=芸能人が参加」という構図は続くだろう。
ネット放送局の“参入”
テレビ局の慣例に追随するように、今年はスマホ向けのネット放送局「アベマTV」を保有するサイバーエージェント社も、俳優の三浦翔平さん(29)を入社式に招いた。
三浦さんは、同社の藤田晋(すすむ)社長(44)の自伝をベースにしたアベマTVオリジナル連続ドラマ「会社は学校じゃねぇんだよ」(21日夜10時スタート)の主演。藤田社長や新入社員と一緒にドラマタイトルの看板を掲げながら記念撮影を行った。同社の広報担当者は「エンターテインメントを提供する会社として、今年初めて芸能人を呼んだ」と話す。
碓井教授は、「ネット放送局も入社式に芸能人を呼ぶことで、『オレたちもテレビ局だぞ』というアピールをはじめた」と分析する。
仮に放送とインターネット通信との垣根をなくす放送制度改革が進めば、さまざまな事業者がテレビ局の放送設備を使って番組を流せるようになり、既存のテレビ局が地上波チャンネルを独占する時代は終わる可能性もある。
ネット放送局を保有する同社が入社式に芸能人を呼んだことは、もしかしたら地上波チャンネル参入への意欲の表れ、あるいはそんな未来図の先取りといえるのかもしれない。〔文化部 三宅令〕
(産経新聞 2018.4.14)