週刊テレビ評
NHK「半分、青い。」
ハンディは「個性」爽やか
NHK連続テレビ小説「半分、青い。」がスタートした。ヒロインの誕生以前、母親の胎内にいた時点から描き始めるという、なかなか凝った作りの導入部だった。主人公の楡野鈴愛(にれのすずめ)(永野芽郁(めい))が生まれたのは1971年7月7日。岐阜県東濃地方の町で食堂を営む楡野宇太郎(滝藤賢一)と晴(松雪泰子)夫妻の長女だ。
鈴愛は小学3年生の時、左の耳が聴こえなくなってしまう。恐らく朝ドラ史上初の「ハンディキャップを持つヒロイン」の登場だ。開始前、そのことがどう描かれるのか気になっていたが、基本的に「障害ではなく個性なんだ」という姿勢であることがわかり、ほっとした。鈴愛は「障害のある女の子」ではなく、「個性的でユニークな女の子」なのだ。
聴力を失った左耳は常に耳鳴りがしているが、鈴愛は「左耳、面白い。小人(こびと)が歌って、踊ってる」と言う。この感性が素晴らしい。踊る小人は秀逸な「例え」だ。耳鳴りを小人に「見立てる」ことで、自分が持つハンディキャップの「解釈」も変わってくる。
思えば、人生のどんな出来事も自分の解釈次第なのかもしれない。もちろんこれは鈴愛というより、脚本の北川悦吏子の優れた表現力のおかげだ。その意味では、タイトルの「半分、青い。」こそ最高の例えと言えるだろう。
他にもこのドラマには楽しい例えがいくつも出てくる。鈴愛は母親の晴のことを、「怒ると(『マグマ大使』に出てくる)ゴアみたいだ」と言っていた。
また鈴愛と同じ日に生まれた萩尾律(佐藤健)の母、和子(原田知世)は、息子から「時々、説教臭い」と指摘され、「出来損ないの金八先生みたい」とNHKらしからぬ例えで自分のことを笑っていた。しかも武田鉄矢の「このバカちんが!」という物まね付きだ。
かつて「あまちゃん」(2013年)で話題となった80年代文化だが、他にも松田聖子の歌から温水洗浄便座までさまざまなアイテムを登場させて楽しませてくれている。成功例を踏まえた目配りが見事だ。
そしてドラマの序章を盛り上げたのは晴と和子だった。同時出産から子供を巡ってやり取りするシーンなど、これまでの朝ドラにないほど印象深く母親2人を描いている。キビキビした感じの松雪と、ホンワカした雰囲気の原田。それぞれが個性を生かして団塊世代の母親像を演じているのだ。
現在、鈴愛は高校3年生。永野芽郁の生き生きとした表情が、見る側を朝から元気にしてくれる。同じ高校に通う律との関係に注目しながら、この爽やかな青春ドラマを楽しみたい。
(毎日新聞 2018年4月21日)