週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
佐々木俊尚
『広く弱くつながって生きる』
幻冬舎新書 842円
ストレスは自分と外界との関わりが原因であることが多い。本人が意識する、しないにかかわらず、家族、会社、業界、そして社会といった集団との関係は濃密で強い。息苦しさに始まり、やがて「逃げ場がない」と自分を追い込んでしまうこともある。佐々木俊尚『広く弱くつながって生きる』は、そんな自縄自縛から脱する一つのヒントだ。
かつて新聞記者だった著者は、所属する組織と取材相手の両方に対して、「強いつながり」を持ちながら仕事をしてきた。フリーランスとなって15年。リーマン・ショックや東日本大震災を経験することで、縦の強いつながりではなく、横に広がる「弱いつながり」の有効性に気づいたと言う。
提言としては、まず組織への過剰依存をやめてみること。その代わり、個人同士のつながりを蓄積していく。著者はその方法としてフェイスブックの活用を勧める。ただし、そこでは利害関係を発生させない。また友だちに見返りを求めない。「相手にとって必要な人」になることを目指す。その際に大切なのが笑顔、好奇心、謙虚さの3つだ。それによって自分より若い世代とも「弱いつながり」を持つことが可能になる。
自分は誰とつながっているのか。どういう人間関係を持っているのか。組織という面ではなく、個人という点を大切にしているか。少し立ち止まって自己点検するのもいいかもしれない。人生は「短絡的な物語」ではなく、偶然や相互作用も社会の原理なのだから。
週刊ダイヤモンド編集部:編
『慶應三田会 学閥の王者』
ダイヤモンド社 1512円
三田会とは慶應のOB組織だ。学年、地域、業種や企業など幾重にも張り巡らされており、一人が複数の三田会に所属することも多い。本書では銀行、総合商社、不動産会社などを例に、ビジネス界における三田会の強さを探っている。組織論、経営論としても興味深い。
古屋美登里
『楽な読書』
シンコーミュージック・エンタテイメント 1620円
翻訳家である著者の書評コラム集。たとえばチャンドラー『ロング・グッドバイ』の魅力は、「マーロウの目を通して見たこの世界の成り立ち方」と明快だ。また浦沢直樹『20世紀少年』では音楽の役割に注目する。倉橋由美子を取り上げた連続コラムも読み応え十分。
松田文夫
『内部告発てんまつ記~原子力規制庁の場合』
七つ森書館 1944円
原子力規制庁で不正入札が行われていた。発注者・受注者の出来レースと官製談合の2件だ。本書は現役技術参与による内部告発の一部始終である。最初は無反応。受理された後も調査は一向に進まない。逆に国家公務員法違反の疑いをかけられた著者は反撃に出る。
(週刊新潮 2018年4月19日号)