週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
山野博史 『司馬さん、みつけました。』
和泉書院 2160円
著者は関西大名誉教授。新聞や雑誌に寄稿してきた、司馬遼太郎の「人と仕事」をめぐる文章が一冊になった。歴史よりも人間への関心。少しの米食とビタミン剤の健康法。映像化と原作者などのエピソードが開陳されている。また作家としての軌跡の解説も十全だ。
池澤夏樹 『終わりと始まり2.0』
朝日新聞出版 1620円
東日本大震災の2年後から書き出した時評エッセイ集だ。政権党の憲法改正草案。政治は「コントロールの技術」だと言う著者の独裁と戦争への懸念。原発安全神話の無責任。安保関連法の成立。森友・加計問題等々。この5年間、溶解が続く社会の実相が見えてくる。
石牟礼道子 『魂の秘境から』
朝日新聞出版 1836円
世界的文学『苦海浄土』の著者が90歳で亡くなったのは今年2月のことだ。最晩年に書き続けたこのエッセイ集が遺作となった。水俣病患者が収容された「避病院」のこと。死を覚悟した熊本地震。島尾敏雄・ミホ夫妻の思い出。いずれの文章も強く、そして優しい。
(週刊新潮 2018年6月28日号)
南方熊楠:著、杉山和也ほか編 『熊楠と猫』
共和国 2484円
犬もうらやむ猫ブームを背景に、博物学の泰斗・南方熊楠の登場だ。英米の留学先、帰国後の和歌山でも猫を可愛がった。本書には本人が描いた猫の絵も収録。スケッチにも漫画にも見える猫の姿がユーモラスだ。また猫に関する論考とその現代語訳も猫好きには嬉しい。
高野光平 『昭和ノスタルジー解体』
晶文社 2700円
すっかり定着した感のある「懐かしの昭和」を愛好する文化は、いつ、どのように成立したのか。著者は1970年代にまで遡り、大人になった「戦後生まれの若者たち」に注目。80年代の懐古ブーム、レトロブームから現在に至る「昭和というコンテンツ」を検証していく。
(週刊新潮 2018年6月21日早苗月増大号)