脚本家・倉本聰 83歳の挑戦
執筆中の新作「やすらぎの刻(とき)~道」
脚本家・倉本聰が現在、「やすらぎの郷」(17年、テレビ朝日―HTB)の続編となる「やすらぎの刻(とき)~道」(19年4月から1年間の放送、同)の執筆に取り組んでいる。しかも描かれるのは老人ホーム「やすらぎの郷」の物語だけではない。
筆を折っていた主人公、脚本家の菊村栄(石坂浩二)が発表のあてもないまま“新作ドラマ”を書き始める。菊村の頭の中だけで作られていく話で、倉本はこれを「脳内ドラマ」と呼んでいる。「やすらぎの刻~道」では、やすらぎの郷の現在だけでなく、この脳内ドラマも映像化されていくのだ。
物語は昭和11年から始まる。主人公は山梨の山村で生まれ育った少年。実際の倉本よりちょっと年上だ。設定について倉本に問うと、「元々20歳だった徴兵年齢がどんどん下がり、最後は17歳までいった。終戦の時、僕は11歳で召集の恐怖はなかったけれど、2、3歳上の人たちにはあったはず。その一番怖いところに差しかかる年代を題材にしたかった」。
また脳内ドラマには、物語上の重要な場所として満州が出てくる。「満州では開拓民が集団自決したり、ソ連兵にひどい目に遭わされたりしました。その末裔が日本に逃げてきて山奥の村でひっそり暮らしている。そういう女性をたとえばマヤ(加賀まりこ)にやらせてみたい」と倉本は言う。
前作の「やすらぎの郷」では、姫こと九条摂子(八千草薫)が亡くなり、及川しのぶ(有馬稲子)は認知症となって去り、三井路子(五月みどり)もスタッフと結婚していなくなってしまった。さらに井深涼子役の野際陽子も逝去した。だが、脳内ドラマにはこうしたメンバーもキャスティングされていく。脚本を書いているのは菊村なので配役のイメージも自由自在だ。視聴者は親しんできた懐かしい人たちと再会できるかもしれない。
倉本によれば、「やすらぎの刻~道」のキーワードは「原風景」である。「子供の頃に遊んで帰った、田舎のどろんこの一本道がある。やがて舗装されると人々が町へと出ていく。故郷は過疎になり、道にはペンペン草が生えてくる。それが登場人物たちの原風景。そこに帰っていきたいという老夫婦を書きたい」そうだ。
場所も時代も違う2つの物語が同時進行して、それが入れ子細工になっていく。通常のドラマとは大きく異なっており、いわば新たなドラマの形の提示とさえ言えるだろう。83歳の現役作家による命がけの挑戦だ。
(北海道新聞 2018.07.07)