週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
夏野 剛 『誰がテレビを殺すのか』
角川新書 885円
夏野剛『誰がテレビを殺すのか』は物騒なタイトルだが、中身のリアリティは十分だ。著者は元NTTドコモ執行役員で、現在は複数のネット系企業で取締役を務めている。テレビ業界を客観的に分析できる立場と見識を持つと言っていい。
論旨は極めて明快だ。テレビは視聴者をネットに奪われて大苦戦している。対抗策はネットの積極的活用のはずだが、テレビ局はコンテンツ発表の場を「テレビ」に限定したままだ。それはネットに潜む威力や破壊力を理解できていないからではないか。危機感がないことが最大の危機だと。
著者はテレビにとっての大きな脅威として「ネットフリックス」を挙げる。6000億円という巨費を投入してオリジナルコンテンツも生み出す配信会社だ。日本のテレビドラマは1話が約3000万円で作られており、1話6億円の制作費は想像を超える。しかも日本のテレビや多くのネットメディアと違い、コマーシャルを収入のベースにしていない点が強い。
確かに、いいコンテンツであれば、発表する場はテレビでもネット配信でも構わないはずだ。テレビ局はコンテンツ制作集団への脱皮を図れという著者の主張は多分正しい。
ならば、その転換を阻むものは何か。新しいことに挑戦しようとしない体質。そしてテレビの中にいる人たち、特に経営陣の認識の甘さだ。厳しい現実を突きつける本書は、テレビ業界への痛烈な警鐘であり、最後のアドバイスかもしれない。
(週刊新潮 2018年6月28日号)