戦後73年 Nスペ「戦争」特集
これもひとつの「忖度(そんたく)」ではないか。かつて8月になれば放送されていた、「戦争」がテーマの特番を、民放ではほとんど見かけなかった。
この5年間に、日本を「戦争のできる国」へと改造してきた安倍政権。戦後73年が過ぎた今、メディアが「戦争」のイメージを喚起することを歓迎しない空気が官邸にはある。民放各局がそれを感知した結果が、「戦争特番のない8月」だったのかもしれない。
一方のNHKは、8月6日から19日にかけて6本のNHKスペシャルで戦争を扱った。その中の1本が12日放送の「“駅の子”の闘い―語り始めた戦争孤児―」だ。
戦後、空襲などで親を失って孤児となり、駅の通路で寝泊まりしていた子どもたちがいた。番組は3年をかけて実態を調査。当時の「駅の子」を探し出し、長く語らずにきたという体験を聞いていく。
彼らは駅の待合室に入ると野良犬のように追い払われた。ようやく行った学校では「戦災こじき」と差別され続けた。中には長年連れ添った夫にさえ、「駅の子」だったことを打ち明けられなかった女性もいる。
戦時中、父親が戦場で命を落とすと、国は残された子どもを「靖国の遺児」と呼び、戦意高揚の材料としても利用した。
しかし、「駅の子」は国が見捨てただけではない。GHQが日本政府に浮浪児対策を求めたことで、「治安を乱す存在」として排除されていく。それは同時に一般市民の「嫌悪の対象」と化すことでもあった。
「なぜ自分たちが浮浪児になったのか、大人は知っているはずなのに」という無念の思いを抱えながら、必死で生きていた幼き者たち。その証言は、国家や大人が引き起こす戦争が子どもたちにも大きな災厄をもたらし、重い犠牲を強いることを生々しく伝えていた。
そして何より印象的だったのは、画面に登場し、証言してくれた駅の子たちが80~90歳代の高齢者であることだ。その体験や思いは、今回こうして語ってもらわなければ、次代に継承されることはなかっただろう。
この国を、「戦争のできる国」から「戦争をする国」へと移行させないためにも、NHKだけでなく民放もまた、過去と真摯に向き合っていくべきだ。
(しんぶん赤旗 2018.09.03)