週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
情熱と愛情で築きあげた
半端ではないコレクションの数々
みうらじゅん 『マイ遺品コレクション』
文藝春秋 1404円
昨年の1月末から約2ヶ月間、川崎市市民ミュージアムで開催されたのが『みうらじゅんフェス!マイブームの全貌展』だ。本人の生誕60周年(還暦)記念も兼ねたこの催しは、それまでの軌跡を振り返ることのできる“生者の回顧展”だった。
特に目を引いたのは、やはりコレクションだ。他人は無関心でも自分が面白くて仕方ないモノを収集して楽しむ。みうらが「マイブーム」と呼ぶ、愛すべき珍品たちが美しくディスプレイされて並ぶ光景は壮観だった。
本書では、これまで集めてきた奇異なるコレクション群を、新たに「マイ遺品」と命名している。まさに「僕本人が僕のキュレーター」となって作成した遺品目録であり、本全体が「マイ遺品博物館」なのである。
たとえば「怪獣スクラップブック」の開始は小学1年生の時。映画『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)に感動した少年は、怪獣写真が載った雑誌や新聞を集めまくる。しかし、そのまま残すにはあまりにかさ張るため、思いついたのがスクラップだ。ひたすら切り抜き、再編集し、スクラップ帳に貼り、4年生までに4巻を完成させた。この“見つけ次第、切って貼る”日常は、半世紀を過ぎた現在も変わらない。
他には、みうらが名づけた「ゆるキャラ」の非売品ぬいぐるみ。かつて子どもたちが女子を驚かせていた「ゴムヘビ」。全国各地の道路脇にひっそりと置かれた「飛び出し坊や」など、遺品は56種にも及ぶ。
注目すべきは、その過剰な情熱と愛情だ。“収集癖と発表癖”の為せるわざとは言え、費やす時間とエネルギーと(保管を含む)費用が半端ではない。単なるコレクターではなく、一旦好きになったものに帰依する修行僧のようなストイックさ、清々しさがそこにある。
マイ遺品は自分だけの極楽であり、三昧境(さんまいきょう)かもしれない。ならば本書はその悦楽への悪魔の誘い、いや、人生の遊び方を示す福音の書だ。
(週刊新潮 2019年3月14日号)
マイ遺品セレクションみうらじゅん文藝春秋