天声人語
「巨人の肩の上」
「一種のパクリはいっぱいありますよ……」。脚本家の倉本聰さんが対談で告白している。例えば洋画の「ゴッドファーザー」。裏切った男が「昔なじみだから助けてくれ」と頼むものの殺される場面がある。セリフをそのまま自分の映画に使ったという▼16回見たという邦画「また逢(あ)う日まで」は、セリフをほとんど暗記している。「だから何かのはずみにそれがひゅっと出てきたりする」(『ドラマへの遺言』)。大脚本家も、過去の作品から大きな影響を受けている▼「私が他人より遠くを見ることができたとしたら、巨人の肩の上に立っていたから」とニュートンは書いた。芸術も科学も、先人たちの業績の上に優れた仕事が生まれる。そう思うと興味深い動きである。美術館がインターネットで収蔵品の無料公開を進めている▼著作権切れの作品の画像を自由にダウンロードできるようにするもので、欧米が先行した。国内勢は後手に回っていたが、愛知県美術館が始めたと本紙にあった。ムンクやクリムト、伊藤若冲もあり、二次創作に使っても構わないという▼ネット全盛の時代、作品の権利をどう守るかが重要な課題になっている。とりわけ音楽や漫画で試行錯誤が続く。しかし引き締めが過ぎれば、未来を担う世代が、過去の作品から学びにくくなるかもしれない。バランスが難しい▼美術館に通い、模写をした……。洋行し修業した画家たちには、そんな話が多い。デジタル時代は、どんな下積み物語が紡がれるか
(朝日新聞 2019.04.22)