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北海道新聞に、「ドラマへの遺言」書評

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<書評>

厳しい姿勢 テレビ愛の証し 

「ドラマへの遺言」 倉本聰、碓井広義 著

評 大野茂(阪南大教授)

「セリフは一字一句直させない」「配役が決まらないと書かない」…。畏怖の念と共に語られるのが、ドラマの巨匠・倉本聰のあまたのうわさ話である。何故に? うわさはどこまで本当か? それを解くカギが、この本の中にある。

娯楽の王様が映画からテレビへ変わった高度成長期。当時の流行語のごとくモーレツに脚本を書きまくった倉本は、話の筋には関係ない場面=ドラマチックの「チック」の部分こそがテレビの妙味だと気づく。

そこで、会話の間(ま)や語尾に徹底的にこだわり、本来は演出家の領域である台本読み合わせでの役者への演技指導にまで越境していく。神は細部に宿るのである。

その熱意が裏目に出てしまったのが、1974年の大河ドラマ『勝海舟』降板事件だった。倉本は仕事のやり方をめぐってNHKと衝突、失意のまま北海道へやって来る。だが、この逃避行があったからこそ、都会に背を向けた倉本の作風が確立し、彼の名声を不動のものとする『前略おふくろ様』も『北の国から』も生まれたのだ。

そして昭和50年代に山田太一、向田邦子、市川森一らと「脚本家の時代」を築き、その後もただ一人、シナリオを書き続けている。また、スターたちとの華麗なる交遊録はもちろん、「アイツはダメ」「本当はあの人の方が良かった」、さらには、誰もが知っている大御所タレントへの手厳しい意見もぽんぽん飛び出す。

でも、それでいいのだ。「人を描くとき、欠点にこそ個性が輝く」と倉本も述べているではないか。それを引き出した共著者の碓井のインタビュー手腕にもうならされる。さながら猛獣使いである。

読むうちに、倉本の人生そのものが「テレビの神様が、天才脚本家を生むために仕組んだ壮大なドラマ」ではないかと思えてくる。84歳の今なお現役で1年間の連続ドラマを書くのはもはや奇跡。

その一部始終を目撃できるのは、今の時代に生きるあなた方だけの特典なのだ。倉本作品の根底に流れる思想を知り、新作『やすらぎの刻(とき)~道』の伴走のための手引きとなる1冊。(新潮新書 886円)

 

くらもと・そう 1935年生まれ。富良野市在住。

うすい・ひろよし 55年生まれ。上智大教授

(北海道新聞 2019.04.28)

 

 

 

ドラマへの遺言 (新潮新書) 倉本聰、碓井広義 新潮社

 

 


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