週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
風俗界に蔓延るリアルな「貧困」
中村淳彦
『東京貧困女子。彼女たちはなぜ躓いたのか』
東洋経済新報社 1620円
今年1月期の深夜ドラマに「フルーツ宅配便」(テレビ東京系)があった。舞台はデリバリーヘルスで、在籍する女性たちにはフルーツの名前が付いている。詐欺に引っかかり借金を背負ったのはモモ。客に本番をさせて後から金をゆする困ったタイプがサクランボだ。それぞれが抱える事情やトラブルの中に、今の社会や人間の姿が映し出されていた。
このドラマは漫画を原作としたフィクションだったが、本書を読むと現実はもっと根深いことが分かる。若い女性たちのリアルな「貧困」がそこにあるからだ。
たとえば国立大学医学部の現役女子大生が登場する。ネットの掲示板を使った、いわゆる「パパ活」で中年男性と交際している。もちろん恋愛ではない。月に1度、1万円から3万円を受け取る割り切った売春行為だ。
父親は数年前にリストラされ、母親が非正規で働いている。日本学生支援機構の奨学金は学費に消え、普通のバイトだけでは学生生活が成立しない。この医学生は歌舞伎町の風俗店にも月に2度ほど出勤する。パパ活と合わせて約5万円を手にするが、その金額では見合わないと思えるほど罪悪感にさいなまれている。
また都内の家電量販店で働く30歳の女性は、地方の大学を卒業後ずっと派遣社員だ。単身で暮らす彼女の年収は300万円。女性の平均年収には達しているが、少しだけ生活を豊かにしようとすると月に数万円足りない。そこで風俗へと向かう。著者によれば、風俗嬢の8~9割は正業をもったダブルワーク女性で、その多くが平均的な単身世帯の非正規労働者だ。すでに10年ほど前から、風俗界は「一般女性であふれ返っている」という。
貧困の理由や背景は人によって異なる。本書に並ぶのも個別の事情が生んだ個別のケースかもしれない。しかし個々の生活を見つめなければ、現象の奥にある真実は浮かび上がってこない。著者が挑んだのは見えない現実の可視化だ。
(週刊新潮 2019.05.23号)
東京貧困女子。: 彼女たちはなぜ躓いたのか 中村 淳彦 東洋経済新報社