週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
新時代の政治と社会を見つめるための重要な指標
保坂正康 『続 昭和の怪物 七つの謎』講談社現代新書 928円
元号が「平成」から「令和」に変わった。しかし、気分や空気だけで希望の時代が到来するはずもない。現実に目を向けず、改元に浮かれ騒ぐマスコミや世間を、冷笑と共に眺める人たちがいたのではないか。
保阪正康『続 昭和の怪物 七つの謎』は、平成の最末期に上梓されたことに意味がある。令和という名の“現在”も、実は昭和という名の“過去”と地続きであることが分かるからだ。
本書に登場する「怪物」は三島由紀夫、近衛文麿、橘孝三郎、野村吉三郎、田中角栄、伊藤昌哉、そして後藤田正晴の7人。「昭和という時代を動かした人物」として選ばれている。
たとえば三島について、「光クラブ事件」の山崎晃嗣と交友があった可能性を探り、両者の死を「自裁死」と捉える。自身を社会や時代と対峙させて自らを裁く自裁死。戦後社会を偽善と見る思考・思想に殉じた三島の自裁死に、著者は社会の在りようをあぶり出す「社会死」への意志を見る。
また田中角栄に対しても、「自覚せざる社会主義者」というユニークな視点で検証していく。戦後社会を生きる庶民の本音を代弁した田中は稀有な指導者であり、戦後民主主義の骨格を成す。何より田中を浮上させることで、「他の首相に欠けているもの」が明らかになる構造が興味深い。
ポイントは庶民の“視線の位置”であり、政治が本来“果たすべき役割”だと著者は言う。令和時代の政治と社会を見つめていく際の重要な指標かもしれない。
(週刊新潮 2019年5月16日号)