ハワイ島 2013
日刊ゲンダイに連載している、番組時評コラム「TV見るべきものは!!」。
ひとつの「同時代記録」として、今年のテレビが何を映してきたかを概観できると思います。
というわけで、今日は3月分です。
各文章は掲載時のまま。
文末の日付は掲載日です。
2013年 テレビは何を映してきたか (3月編)
「マイケル・サンデルの白熱教室@東北大学」 NHK
日本でもすっかりお馴染みになったハーバード大学のマイケル・サンデル教授。先週末、NHKでシリーズ最新作「マイケル・サンデルの白熱教室@東北大学」が放送された。サブタイトルは「これからの復興の話をしよう」。学生と市民、1000人が集まった。
過去の「白熱教室」では架空の課題を設定していたが今回は違う。「自主避難と補償」「人命救助と犠牲」など話は極めて具体的だ。まず感心したのは、会場にいる人たちを議論に巻き込んでいく手腕だ。二者択一の質問を投げかけ、参加者に選択の理由を述べてもらう。また反論や再反論の合間に論点を素早く整理し、議論が堂々巡りにならないよう配慮するのだ。
最も盛り上がったのは、復興に際して合意とスピードのどちらを優先させるかという議論だった。若者が住民の意見を一致させることの必要性を主張すると、シニア世代の男性が「それは絵に描いた餅」と反論。さらに別の男性が「合意というより納得が大事。それには時間も必要」と訴える。最後に教授は、他者の意見を理解し、敬意をもって議論することの大切さを説いていた。
自分の頭で考え、それを言語化する。同時に他者の意見に耳を傾ける。その上で自ら判断を下さなくてはならない時代。サンデル教授とこの番組は、「思考と議論の道場」としてかなり有効だ。
(2013.03.05)
NHKスペシャル「わが子へ〜大川小学校 遺族たちの2年〜」
東日本大震災から2年。先週から今週にかけて、各局で関連番組が何本も流された。その中で特に印象に残ったのが、8日に放送されたNHKスペシャル「わが子へ〜大川小学校 遺族たちの2年〜」である。
石巻市立大川小学校では、全校生徒108人のうち74人が津波の犠牲となった。また11人いた教員も10人が亡くなってしまう。まさにあり得ないような悲劇だった。
番組には3組の遺族が登場する。妻と小学生だった長男を含む3人の子供を失った父親は、まだ見つからない我が子を探して今もショベルカーのハンドルを握っている。
また6年生の娘を亡くした父親は教育員会の調査結果に納得がいかない。しかし自身も中学校の教員であるため、声を上げることに二の足を踏んでいた。そして大川小学校の教員だった息子に先立たれた母親は、その悲しみだけでなく、結果的に息子が生徒たちを守れなかったことへの負い目と共に暮らしている。
これは、「安全なはずの学校でなぜ?」という疑問に答える検証番組ではない。遺族たちの消えない悲しみと、生き残った者としての複雑な思いを静かに伝える“こころのドキュメント”だ。時間が経って逆に増してくるつらさもあることを知ると同時に、あらためて震災とその犠牲者、遺族の存在を忘れてはならないと思わせてくれた。
(2013.03.12)
「おトメさん」 テレビ朝日
連続ドラマが次々と最終回を迎えている。テレビ朝日「おトメさん」も先週がラスト。思えば、ホームドラマとしては異色の1本だった。
その理由は3つある。まず嫁と姑(ネットではトメ)という昔ながらの題材に新たな切り口を持ち込んだことだ。「強者である姑と泣かされる嫁」というパターンを壊し、姑(黒木瞳)が嫁(相武紗季)に戦々恐々とする。
次にホームドラマでありながら、結構ハラハラさせるサスペンス仕立てになっていたこと。元キャバクラ嬢という嫁の正体がつかめなかったり、姑が抱えている秘密が明かされなかったり。その上、ある男の失踪事件や立てこもり事件まで展開されたのだ。
そして3つ目は2人の女優のチャレンジである。どんな役もどこかキレイゴトに見える黒木が、罵倒され苛められる姑になりきり、ひたすら明るく元気なイメージの相武が、かなりハラのすわった嫁を好演した。
特に最終回での本音のぶつけ合いは圧巻だった。「何なの!この家を無茶苦茶にして」と黒木が吠えれば、相武も「だったら、やり直せばいいじゃない!」と応戦。家族が本音を言い合うことで、一度壊れた家庭を再生していく道が見えてきた。
最終回の視聴率13.6%。平均11.5%という数字も今期では上位となる。ホームドラマという古い器も使い方次第なのだ。
(2013.03.19)
「最高の離婚」 フジテレビ
今期連ドラで最も視聴率を稼いだのはTBSの「とんび」だ。しかし、NHKの二番煎じをぬけぬけと出す臆面のなさと、ベタな家族愛の大売り出しに、やや辟易。初期段階で離脱した。
逆に「どうするんだ」「どうなるんだ」とつい最終回まで見続けてしまったのがフジテレビ「最高の離婚」だ。互いに不満や不安を抱えていた2組の夫婦、瑛太&尾野真千子、綾野剛&真木よう子の物語。大事件が起きるわけではない。しかも最終的には「雨降って地固まる」的な着地だったにも関わらず、見る側は大いに楽しんだ。
何より彼らのセリフの応酬が素晴らしい。瑛太が「結婚は、3Dです。3D。打算、妥協、惰性。そんなもんです」とボヤけば、尾野も「(男が子供だから)妻って結局、鬼嫁になるか、泣く嫁になるのかの二択しかないのよ」と憤る。
他にもこのドラマでは、夫や妻が互いに「言いたくても言えない」「言いたくても言わない」「できれば言わずに済ませたい」本音がセリフの銃弾となって飛び交っていた。脚本は「それでも、生きてゆく」(フジ)の坂元裕二である。
どちらも、結婚せず恋人のままでいたほうがいいタイプのカップルだが、最後は「結婚も悪くないじゃん」と思わせるあたりは、旬の役者4人の相乗効果だ。続編があってもおかしくない。
(2013.03.26)
日刊ゲンダイに連載している、番組時評コラム「TV見るべきものは!!」。
ひとつの「同時代記録」として、今年のテレビが何を映してきたかを概観できると思います。
というわけで、今日は3月分です。
各文章は掲載時のまま。
文末の日付は掲載日です。
2013年 テレビは何を映してきたか (3月編)
「マイケル・サンデルの白熱教室@東北大学」 NHK
日本でもすっかりお馴染みになったハーバード大学のマイケル・サンデル教授。先週末、NHKでシリーズ最新作「マイケル・サンデルの白熱教室@東北大学」が放送された。サブタイトルは「これからの復興の話をしよう」。学生と市民、1000人が集まった。
過去の「白熱教室」では架空の課題を設定していたが今回は違う。「自主避難と補償」「人命救助と犠牲」など話は極めて具体的だ。まず感心したのは、会場にいる人たちを議論に巻き込んでいく手腕だ。二者択一の質問を投げかけ、参加者に選択の理由を述べてもらう。また反論や再反論の合間に論点を素早く整理し、議論が堂々巡りにならないよう配慮するのだ。
最も盛り上がったのは、復興に際して合意とスピードのどちらを優先させるかという議論だった。若者が住民の意見を一致させることの必要性を主張すると、シニア世代の男性が「それは絵に描いた餅」と反論。さらに別の男性が「合意というより納得が大事。それには時間も必要」と訴える。最後に教授は、他者の意見を理解し、敬意をもって議論することの大切さを説いていた。
自分の頭で考え、それを言語化する。同時に他者の意見に耳を傾ける。その上で自ら判断を下さなくてはならない時代。サンデル教授とこの番組は、「思考と議論の道場」としてかなり有効だ。
(2013.03.05)
NHKスペシャル「わが子へ〜大川小学校 遺族たちの2年〜」
東日本大震災から2年。先週から今週にかけて、各局で関連番組が何本も流された。その中で特に印象に残ったのが、8日に放送されたNHKスペシャル「わが子へ〜大川小学校 遺族たちの2年〜」である。
石巻市立大川小学校では、全校生徒108人のうち74人が津波の犠牲となった。また11人いた教員も10人が亡くなってしまう。まさにあり得ないような悲劇だった。
番組には3組の遺族が登場する。妻と小学生だった長男を含む3人の子供を失った父親は、まだ見つからない我が子を探して今もショベルカーのハンドルを握っている。
また6年生の娘を亡くした父親は教育員会の調査結果に納得がいかない。しかし自身も中学校の教員であるため、声を上げることに二の足を踏んでいた。そして大川小学校の教員だった息子に先立たれた母親は、その悲しみだけでなく、結果的に息子が生徒たちを守れなかったことへの負い目と共に暮らしている。
これは、「安全なはずの学校でなぜ?」という疑問に答える検証番組ではない。遺族たちの消えない悲しみと、生き残った者としての複雑な思いを静かに伝える“こころのドキュメント”だ。時間が経って逆に増してくるつらさもあることを知ると同時に、あらためて震災とその犠牲者、遺族の存在を忘れてはならないと思わせてくれた。
(2013.03.12)
「おトメさん」 テレビ朝日
連続ドラマが次々と最終回を迎えている。テレビ朝日「おトメさん」も先週がラスト。思えば、ホームドラマとしては異色の1本だった。
その理由は3つある。まず嫁と姑(ネットではトメ)という昔ながらの題材に新たな切り口を持ち込んだことだ。「強者である姑と泣かされる嫁」というパターンを壊し、姑(黒木瞳)が嫁(相武紗季)に戦々恐々とする。
次にホームドラマでありながら、結構ハラハラさせるサスペンス仕立てになっていたこと。元キャバクラ嬢という嫁の正体がつかめなかったり、姑が抱えている秘密が明かされなかったり。その上、ある男の失踪事件や立てこもり事件まで展開されたのだ。
そして3つ目は2人の女優のチャレンジである。どんな役もどこかキレイゴトに見える黒木が、罵倒され苛められる姑になりきり、ひたすら明るく元気なイメージの相武が、かなりハラのすわった嫁を好演した。
特に最終回での本音のぶつけ合いは圧巻だった。「何なの!この家を無茶苦茶にして」と黒木が吠えれば、相武も「だったら、やり直せばいいじゃない!」と応戦。家族が本音を言い合うことで、一度壊れた家庭を再生していく道が見えてきた。
最終回の視聴率13.6%。平均11.5%という数字も今期では上位となる。ホームドラマという古い器も使い方次第なのだ。
(2013.03.19)
「最高の離婚」 フジテレビ
今期連ドラで最も視聴率を稼いだのはTBSの「とんび」だ。しかし、NHKの二番煎じをぬけぬけと出す臆面のなさと、ベタな家族愛の大売り出しに、やや辟易。初期段階で離脱した。
逆に「どうするんだ」「どうなるんだ」とつい最終回まで見続けてしまったのがフジテレビ「最高の離婚」だ。互いに不満や不安を抱えていた2組の夫婦、瑛太&尾野真千子、綾野剛&真木よう子の物語。大事件が起きるわけではない。しかも最終的には「雨降って地固まる」的な着地だったにも関わらず、見る側は大いに楽しんだ。
何より彼らのセリフの応酬が素晴らしい。瑛太が「結婚は、3Dです。3D。打算、妥協、惰性。そんなもんです」とボヤけば、尾野も「(男が子供だから)妻って結局、鬼嫁になるか、泣く嫁になるのかの二択しかないのよ」と憤る。
他にもこのドラマでは、夫や妻が互いに「言いたくても言えない」「言いたくても言わない」「できれば言わずに済ませたい」本音がセリフの銃弾となって飛び交っていた。脚本は「それでも、生きてゆく」(フジ)の坂元裕二である。
どちらも、結婚せず恋人のままでいたほうがいいタイプのカップルだが、最後は「結婚も悪くないじゃん」と思わせるあたりは、旬の役者4人の相乗効果だ。続編があってもおかしくない。
(2013.03.26)