週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
いわば「文学運動」でもあった
日本SFが根を下ろすまでの回想記
豊田有恒
『日本SF誕生~空想と科学の作家たち』
勉誠出版 1944円
早川書房が『SFマガジン』を創刊したのは1959年だ。60年代初頭は日本SFの草創期にあたる。著者をはじめ当時の書き手たちは、米国の作品に導かれて新たなジャンルに足を踏み入れ、やがて独自の世界を構築していった。本書はその「苦闘と、哀愁と、歓喜の交友」の物語であり、「日本SFが根を下ろすまで」の貴重な回想記である。
約60年前、SFはどんな位置にあったのか。著者が、『夕ばえ作戦』などで知られる作家、光瀬龍の言葉を紹介している。曰く「SFは、二つの偏見の狭間(はざ ま)にある」と。それは「くだらないもの」と「難しいもの」というネガティブな評価だった。SFは、それまでにないものを生み出し広めていく、いわば「文学運動」でもあったのだ。
SFでは食べられなかった頃の作家たちを支えたものの一つが、当時誕生したテレビアニメだった。63年、著者は『エイトマン』で「アニメのオリジナル脚本家の第一号」となり、『鉄腕アトム』にも参加した。65年の『スーパージェッター』には、著者の他に筒井康隆や『ねらわれた学園』などの眉村卓も名を連ねている。SFは「活字と映像の垣根がないメディア」というのが著者の持論であり、アニメとの深い関係は、後の『宇宙戦艦ヤマト』まで続いた。
また本書で注目したいのは、登場するのが作家だけではないことだ。たとえば、『SFマガジン』の鬼編集長といわれた福島正実。当時のSFはプロとアマチュアの境界が曖昧で、福島はプロを熱望していた。著者も厳しいダメ出しを受けることで成長していった。福島以外にも、SFがマイナーだった時代に応援してくれた編集者たちの逸話が披露されている。いずれも陰の功労者だ。
著者は本書を「遺言」と呼んでいる。少年時代に「ジュブナイル(青少年向け)SF」を愛読していた者としては、SFの歴史を次代に伝えてくれたことに感謝したい。
(週刊新潮 2019.09.26号)