テレビ朝日・TBS…
相次ぐ「やらせ」なぜ
「見せたい」と「見たい」に乖離
視聴者、フェイクニュース敏感に
人気バラエティー番組で相次いだ“やらせ”や“不適切な演出”の問題が、報道番組にも及んだ。テレビ朝日は、今年3月に放送された平日夕方の報道番組「スーパーJチャンネル」で“やらせ”があったと明らかにした。同局は謝罪に追われ、早河洋会長らが役員報酬1カ月分の10%を返上するなどの処分に発展。識者からは、フェイクニュースに敏感になっている一般視聴者と、制作者との意識の乖離(かいり)を指摘する声も聞かれる。(石井那納子)
テレビ朝日によると、問題となったのは今年3月15日に放送した同番組内の企画「業務用スーパーの意外な利用法」。業務用スーパーをあえて利用する個人客の人間模様を描く内容で、客として登場した5人が、番組スタッフである男性ディレクター(49)の知人だった。男性ディレクターは事前に取材場所や日程を教え、店では初対面を装っていた。
この企画は、同局の関連会社「テレビ朝日映像」が制作したもので、テレビ朝日系の14局でオンエアされたという。
担当した男性ディレクターは映画監督経験もあり、派遣会社からテレビ朝日映像に派遣されていた。昨年4月〜今年3月に、問題となった企画を含め計13本の制作に携わった。同局の調査に対し、「番組づくりに自信がなくなっていた。知人に声を掛けることは演出として許されないが、明確な指示さえしなければいいのではないかと都合よく解釈した」と話しているという。
会見に臨んだ篠塚浩常務は、「(やらせや仕込みと)指摘されても否定はできない不適切な演出だった」と謝罪し、企画の中止を発表した。
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撮影にあたっては、テレビ朝日映像から出された企画提案をもとに、企画会議が行われる。とっぴな内容や、撮影が困難を極めると想像される場合には見直しが求められることもあるが、今回の企画案はテレビ朝日も了承した。
テレビ朝日映像には男性ディレクターの上にチーフディレクターやプロデューサーもおり、放送に至るまでには、テレビ朝日のデスクらも交えて3回のプレビューが実施されたという。だが、これだけのチェックを通しても、不適切な演出に気付くことはできなかった。
男性ディレクターが動機に挙げた「自信がなくなった」という点について、篠塚常務は、男性ディレクターが過去にも類似した企画を撮影していたことをあげ、「その時に自分が思うようなものができなかったということではないか」と推し量った。
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9月に問題となったTBSのバラエティー番組「消えた天才」では、映像を早回しすることで、実際の投球速度よりも速く見えるような加工が行われていた。一部のスタッフはTBSの調査に対し「天才の度合いを強調したかった」と話したという。同番組とバラエティー番組「クレイジージャーニー」の2番組が打ち切りとなった。
両ケースとも、制作者側に理想のストーリーや映像があり、それを際立たせようとするあまり不適切な演出が行われたことがうかがえる。長年テレビ番組の制作に携わってきた上智大学文学部教授(メディア文化論)の碓井広義教授は「視聴者がやらせや仕込み、フェイクニュースに敏感になる一方、作り手の意識が追いついていない。見たいと思うものと、見せたいと思うものとに乖離が生じている」と指摘する。「安易にやらせに走らないよう、プロフェッショナリズムを持ち続けるには自らが意識してチェックするしかない」と厳しい。
動画配信サービスなどとの競争で、テレビの立場は相対的に弱くなりつつある。碓井氏は「情報の信頼性という点では既存メディアの方にまだ少し利があった。自分たちが描いたストーリーに絵を当てはめるような番組づくりを続けていては、業界として視聴者の信頼を取り戻せなくなる」と警鐘を鳴らしている。
(産経新聞 2019.10.23)