「同期のサクラ」
ブレないヒロイン
駄じゃれのようなタイトルだが、侮れない。「同期のサクラ」(日本テレビ系)である。10年前、故郷の離島に橋を架けたいと、大手建設会社に入社したのが北野サクラ(高畑充希)だ。
このヒロイン、性格がかなり変わっている。生真面目すぎて融通がきかない。自分が正しいと思ったことは何でもハッキリと言う。相手が社長であっても間違っていれば指摘する。周囲に合わせる、いわゆる「空気」を読むことをしないのだ。
しかも、サクラが言うことは確かに正論であり、見ている側は、自分が「正論の通らない社会や組織」に麻痺していたことに気づくのだ。このドラマの大きな見所である。
実は現在、サクラは病院のベッドにいる。病名は脳挫傷で意識不明のままだ。眠っている彼女のかたわらに立つのが木島葵(新田真剣佑)、清水菊夫(竜星涼)、土井蓮太郎(岡山天音)、月村百合(橋本愛)といった同期の仲間である。
物語としては、まず10年前の入社時にさかのぼり、そこから毎回1年ずつ、サクラと仲間たちの軌跡を描いていく。元々は土木部志望のサクラだが、遠慮のない言動が災いして人事部に配属された。
だが、そのおかげで社内の様々な部署と接触することができる。このあたり、脚本の遊川和彦(「家政婦のミタ」など)による設定が上手い。
営業部にいる同期、清水は応援部出身の熱血漢。上司から無理難題を押しつけられ、心身ともに限界だった。残業を減らす通達が出たこともあり、サクラはこの上司に正面からぶつかるが、同時に清水に対しても、「仕事と自分」について本気で考えることを促していく。
また広報部の月村は、本来の自分を押し隠して「愛される広報ウーマン」でいることに疲れ、結婚退社を決めてしまう。引き留めようとするサクラだったが、月村との壮絶バトルに。
女性が仕事をしていく上での障壁が、社会や組織など外側だけにあるのではなく、本当は女性自身の中にも内なる壁が存在することを提示して見事だった。
サクラの信条は「自分にしか出来ないことをやる」。まったくブレないヒロインが徐々に周囲を変えていく。そのスリリングな展開から目が離せない秀作だ。
(しんぶん赤旗「波動」2019.10.28)