週刊テレビ評
「グランメゾン東京」
「俳優・木村拓哉」と名脇役陣
TBS系の日曜劇場「グランメゾン東京」が始まった。10月20日の初回冒頭は、堂々の海外ロケでパリだ。主人公の尾花夏樹(木村拓哉)はパリで評判の店「エスコフイエ」の実力派シェフ。店ではフランス大統領ら要人たちの会食が行われるまでになったが、その当日、料理にアレルギー食材が混入していたため大騒動となる。尾花はフランスの料理界を追われた。
それから3年後のパリ。尾花は、三つ星レストランの採用面接に挑んでいた早見倫子(鈴木京香)と出会う。彼女は日本で10年間やってきた店を閉め、パリで一から修業したいと思ったのだが、叶(かな)わなかった。そんな倫子を尾花が誘う。「レストラン、やらない? 俺と」「2人で世界一のグランメゾン、つくるっての、どう?」
もしも以前の木村がこんなセリフを口にしていたら、見る側は「ああ、またキムタクドラマか」と白けていたかもしれない。過去、パイロットやアイスホッケー選手など、どんな役を演じても木村本人にしか見えず、視聴者はドラマに集中できなかった。キムタクドラマと揶揄(やゆ)された所以(ゆえん)だ。
しかし、2015年の「アイムホーム」(テレビ朝日系)あたりから、「俳優・木村拓哉」としての存在感を示すようになる。ただし、その後の「A LIFE~愛しき人~」(TBS系)や「BG~身辺警護人~」(テレ朝系)では、時々昔の木村が顔を出し、ハラハラさせた。
今回、第2話までを見る限りだが、演技に変な力みやクセがない。目の前にいるのは尾花夏樹を演じる「木村拓哉」ではなく、木村拓哉が演じる「尾花夏樹」だ。それくらい木村の演技に、また他の出演者との掛け合いに無理がない。最大の関門、もしくは懸念を払拭(ふっしょく)したことになるのではないか。
すでに舞台は東京だ。尾花は倫子の家の車で寝泊まりしている。ある日、2人は評判のフレンチの店「gaku」に出かけた。そこで再会したのが、かつて尾花と一緒にパリの店をやっていた京野(沢村一輝)だ。しかも、シェフはパリの修業仲間で、尾花をライバル視する丹後(尾上菊之助)だった。結局、京野は尾花たちの新しい店「グランメゾン東京」に参加することになる。
このドラマ、かつての挫折から立ち上がり、夢に向かって再チャレンジしようとする者たちの群像劇だ。主演の木村を囲む鈴木、沢村、尾上。さらにパリ時代からの知り合いで、料理研究家の相沢を演じるのは及川光博だ。力のある食材、いや脇役がそろったことで、全体から美味(おい)しそうな「大人のドラマ」の香りが漂ってきた。
(毎日新聞「週刊テレビ評」2019.11.02)