今期も快走!
『ドクターX』の「失敗しない」進化とは!?
米倉涼子主演『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)の放送が始まったのは2012年のことでした。もう7年になるんですね。
『相棒』と共に、テレ朝を代表する「鉄板シリーズ」となったこのドラマ、今期はシリーズ第6弾です。とはいえ、長年にわたって高い人気を持続するのは容易なことではありません。
シリーズドラマの「落とし穴」シリーズドラマが衰退していく時、最大の要因はスタッフ(制作側)とキャスト(出演者)の「慢心」にあります。安定(高視聴率)と長期化(シリーズ継続)という成果に満足し、徐々に緊張感がゆるんでいく。
しかし、成功体験にあぐらをかいて、ストーリーがワンパターンの繰り返しとなれば、視聴者は飽きてしまいます。これまでも自己模倣と縮小コピーに陥って消えたシリーズ物は数多くあります。
そうならないために必要なのは「現状維持」ではなく、「正常進化」です。ただし、ドラマの基本となる「世界観」は変えてはいけません。それは誤った進化です。
全体は「いつもと変わらない」ように見せながら、細かなところでは世の中の動きを柔軟に反映させていく。このシリーズは、それを実現しているのです。
「リアル社会」を巧みに織り込む今期の舞台である東帝大学病院では、手術の現場を仕切っているのが最新のAI(人工知能)です。執刀医たちはAIの指示で動くロボットのようで、主客転倒といった雰囲気。
しかも、AIに言われた通りに動いているうちに、患者の命が危うくなります。それを救うのは、もちろん大門未知子(米倉)です。
第2話では、2人の患者の肝臓移植を連続して行う「生体ドミノ肝移植」という離れ業も披露されました。
しかも治療で優遇される「富裕層」と、病室から追われる「貧困層」を対比させ、医療の現場における「命の格差」の現状を、しっかり描いていました。
「AI社会」にしろ、「格差社会」にしろ、今どきのこの国のリアルを巧みに織り込んだ展開が見事です。
「重層構造化」する物語次が「物語の重層構造化」、もしくは「ストーリーの二階建て」です。たとえば第4話では陸上選手の「滑膜肉腫」が主題かと思いきや、外科部長(ユースケ・サンタマリア)の母親(倍賞美津子)の「特発性正常圧水頭症」に気がつき、手術を成功させました。
また第6話には、「後腹膜原発胚細胞腫瘍」の少女が登場したのですが、彼女を自分の売名のために支援していた青年実業家(平岡祐太)の「肝細胞がん」のほうが本命の手術でした。
見る側に、ある患者の難しい手術が見せ場だと思わせておいて、途中から別の患者のもっと困難なケースへと移行していく。グリコのキャラメルじゃありませんが、「1話で2度おいしい」体験を見る側に提供しています。
大門未知子の天才的外科手術と、組織内のヤクザ映画的人間模様。いつもと変わらぬ「ドクターXワールド」を堅持しながら、「正常進化」としての適度な新規性や意外性を盛り込んでいく。
その絶妙なバランスこそが、このドラマを「2010年代」という、この10年を代表する名シリーズの1本に位置付けているのです。