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「民放連賞グランプリ」が示す、地方局のコンテンツパワー

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「民放連賞グランプリ」が示す、

地方局のコンテンツパワー

 

民放連賞グランプリ『チャンネルはそのまま!』

北海道テレビ(以下、HTB)が制作したドラマ『チャンネルはそのまま!』が、「2019年日本民間放送連盟賞」のテレビ部門でグランプリを獲得した。

HTBは、札幌にあるテレビ朝日系列の放送局。長い間、郊外の南平岸の高台にあった局舎が、都心の「さっぽろ創生スクエア」へと移転したのは昨年9月ことだ。

南平岸に残った「旧社屋」を、ロケセットとして使いながら制作した開局50周年記念ドラマが、受賞作の『チャンネルはそのまま!』だ。放送されたのは今年の3月18日(月)から22日(金)までの連続5夜だった。

「バカのチカラ」が人を動かす!?

ドラマ『チャンネルはそのまま!』全5話の内容を、ひとことで言うなら、北海道のローカルテレビ局「HHTV北海道★(ホシ)テレビ」に入社してきた破天荒な新人女性記者、雪丸花子(芳根京子)の奮闘記である。

そういう意味では、いわゆる「お仕事ドラマ」と呼べるかもしれない。しかし、「テレビ局が舞台のお仕事ドラマ」としてイメージしやすく、またこれまでにドラマにもなったアナウンサー物ではない。花子が所属する報道部だけでなく、編成部、営業部、技術部といった、外部からは見えづらい部署の人たちを丁寧に描いているのが特徴だ。

ドラマの中の花子は、一種の「狂言回し」であり、効き目のある「触媒」のような役割を果たす。彼女によって、それまでなんとなく「俺たちローカルって、こんなもんだよね~」という気分で沈滞していたホシテレビが、じわじわと活性化していくのだ。

しかし、「花子はとてつもなく優秀なスーパーテレビウーマンなのか?」と問われたら、答えは「逆ですね」となる。優秀の逆で、ドジな劣等生であり、どう考えても、テレビ局の採用試験という難関を突破できるはずのない就活生だった。

では、なぜ入社できたのか。採用に際して、ホシテレビが設けているという「バカ枠」のおかげだ。

優秀なメンバーだけでは、組織全体が小さくまとまってしまう。そこに異種としてのバカ(「おバカ」ではない)を混入させ、予測できない化学反応が起きることを期待する。それが「バカ枠」であり、このドラマは、ローカルテレビ局という組織と人が、「バカのチカラ」によって思わぬ変貌を遂げていく物語だったのだ。

ちなみに、ホシテレビでは「バカ枠」と同時に、バカをサポートする「バカ係」も採用していた。ドラマの中では、花子と同じ報道部に配属された出来のいい新人、山根(「男劇団 青山表参道X」の飯島寛騎)が、それに当たる。

事件は「現場」で起きる!

第1話は、ドジと失敗ばかりなのに応援したくなる花子のキャラクターと、テレビの仕事を、視聴者側が知っていく時間だ。続く第2話で、カリスマ農業技術者にして農業NPOの代表でもある蒲原(大泉洋、快演!)が登場したあたりから、物語はぐんぐん加速していく。

また、局内の2人の人物を通じて、テレビとローカル局の現状を垣間見ることができるのも、このドラマの醍醐味だ。キー局から送り込まれた編成局長、城ケ崎(斎藤護)が部下たちに言い放つ。

「いいか! キー局では視聴率がすべての基準。数字がすべてだ!」

一方、いかにも生え抜きの情報部長、ヒゲ面にアロハシャツの小倉(演じる藤村忠寿はHTB『水曜どうでしょう』ディレクターにして本作の監督)は、こんなことを言う男だ。

「報道部で必要なのは5W1H。情報部に必要なのは5W1H+L。ラブだよ!」

さらに、ホシテレビよりも強大で、視聴率でも断然リードしている「ひぐまテレビ」(モデルは札幌のどの局か?)には、ホシテレビを目の敵にしている剛腕情報部長の鹿取(安田顕)もいる。ローカルにはローカルの熾烈な戦いがあることを、安田が、『下町ロケット』などで鍛えた凄味のある演技で伝えていた。

「果敢な挑戦」としてのドラマ制作

今回、ヒロインを演じたのは芳根京子だ。昨年の『高嶺の花』で、石原さとみの妹役でひと皮むけた進化を遂げたが、このドラマでは、コメディエンヌとしての才能をフル稼働させている。

確かにドジかもしれないが、いつも一所懸命。周囲が見えなくなってしまうほど、他者の気持ちに寄り添ってしまう。周囲に迷惑ばかりかけるが、必ず何かの「きっかけ」を生み出していく。

「バカのチカラ」炸裂の花子だが、テレビ局だけでなく、社会の中に、こういうバカが増えてくれたらいいなあ、と思わせてくれる元気な女子だ。

主演の芳根、脇を固めた大泉をはじめとするTEAM NACS(チーム・ナックス)の面々、オクラホマなど北海道のタレントや役者、そして作り手であると同時にキャストでもあるHTB社員たちの総合力によって出来上がったこのドラマ。笑いながら最終話まで見ていくと、いつの間にか、とんでもない領域まで連れていかれたような快感がある。

放送という電波だけが、視聴者とつながる回路ではなくなった時代だ。アウトプットの方法が多様化した時代。東京の局だろうが、地方の局だろうが、面白いコンテンツを創造できるかどうかが生命線となる時代。「地方局はどう生きるべきか」という自問への一つの回答が描かれていた。

またこのドラマは、ときには「オールドメディア」などと言われたりもするテレビが持つ、「どっこい、ナメんなよ!」というポテンシャル(可能性としてのチカラ)も示してくれていた。別の言い方をすれば、物語の中に「テレビだからこそ」「テレビならでは」の魅力の再発見があったのだ。

今回のHTBの果敢な挑戦、もしくは壮大な実験には、これからの生き残りを模索している、全国のローカル局も注目していた。その結果としての民放連賞グランプリではなかったか。

原作は佐々木倫子(『おたんこナース』『Heaven?』など)の同名漫画で、脚本は森ハヤシ。監督はキャストでもある藤村忠寿を筆頭に4名が並ぶ。総監督を務めたのは、『踊る大捜査線』シリーズの本広克行だ。

この『チャンネルはそのまま!』だが、グランプリ受賞記念として、2020年1月にHTBをはじめ全国のテレビ朝日系列局で放送されることが決まった。

HTB、テレ朝、朝日放送、メ~テレ、九州朝日放送などでは、2020年1月5日(日)午前10時~第1話・第2話、1月12日(日)午前10時~第3話・第4話、1月19日(日)午前10時~第5話となっている。他の系列局でも日程は異なるが視聴可能だ。

地方局の番組は、たとえ秀作であっても、他の地域では見ることが難しい。こういう形で全国放送が実現したことは、「賞」の効果として、とても喜ばしいことだ。テレビの「現在」を目撃するという意味でも、一見の価値がある。

研究者も注目の『水曜どうでしょう』

『チャンネルはそのまま!』で監督を務めた、HTBの藤村忠寿ディレクター。あの伝説的ローカル番組『水曜どうでしょう』で知られた制作者であることは言うまでもない。

北海道で、『水曜どうでしょう』の放送が始まったのは1996年のことだ。思えば、出演の大泉洋も鈴井貴之も当時、道内では知られていても、全国的にはまだ無名だった。

やがて番組は、いわば「無茶な旅」という鉱脈を見つける。様々な行先が書かれたサイコロを振り、何が何でもその通りに実行する姿がおかしく、口コミなどでファンが増えていく。後には国内だけでなく、「原付ベトナム縦断1800キロ」といった壮大な企画にも挑戦していった。

この番組の特徴は、出演者2人とディレクター2人の計4人だけでロケを敢行することだ。カメラもディレクターが回している。姿は映っていなくても常にスタッフの声が入り、笑ったり、怒ったりするのも番組名物だ。

レギュラー放送が終了したのは2002年。その間に各地のテレビ局に番組販売が行われ、全国区の知名度を持つドキュメントバラエティとなっていった。 

キーワードは「共感の共有」

つい最近、『水曜どうでしょう』に関する興味深い本が出版された。広田すみれ『5人目の旅人たち―「水曜どうでしょう」と藩士コミュニティの研究』(慶應義塾大学出版会)だ。著者は気鋭の社会心理学者。「ファンはなぜこの番組にのめり込むのか」を探った、異色の研究書である。

著者がまず注目するのは、早い段階でのDVD化やネット動画を通じて、繰り返し視聴を可能にしたことだ。また番組掲示板の活用により、ファンの間の「共感」を維持してきた。

さらに著者は、この番組が持つ「身体性」を指摘する。まるで4人と一緒に旅をしているような、一種のバーチャル感を生み出す映像と音声。特に時間にしばられずに臨場感を高める編集を施したDVDは、通常のテレビ番組とは違う「体験」型の映像コンテンツとなった。

今回の研究は、全国のファン(藩士と呼ばれる)の中に、この番組を「癒し」と感じる人が多いと知ったことがきっかけだったという。特に東日本大震災の被災者を精神的に支えるアイテムとなっていた。視聴者同士の間に生まれた「共感」の共有。それはまさに現在のソーシャルメディアでの「共有」の先駆けだったのだ。

共感の共有。それは『水曜どうでしょう』のみならず、ドラマ『チャンネルはそのまま!』にも通底していることに気づく。それは、来る2020年からのコンテンツ制作にとっても、大きなヒントとなるキーワードである。

 


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