週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
あの伝説的ローカル番組
ヒットの秘密は”共感の共有”
広田すみれ
『5人目の旅人たち―「水曜どうでしょう」と藩士コミュニティの研究』
慶應義塾大学出版会/1760円
北海道テレビが制作するバラエティ番組『水曜どうでしょう』。ローカルでの放送が始まったのは1996年のことだ。出演の大泉洋と鈴井貴之は当時、道内では知られていても全国的にはまだ無名だった。
やがて番組は、「無茶な旅」という鉱脈を見つける。様々な行先が書かれたサイコロを振り、何が何でもその通りに実行する姿がおかしく、口コミなどでファンが増えていく。後には国内だけでなく、「原付ベトナム縦断1800キロ」といった壮大な企画にも挑戦していった。
この番組の特徴は、出演者2人とディレクター2人の計4人だけでロケを敢行することだ。カメラもディレクターが回している。姿は映っていなくても常にスタッフの声が入り、笑ったり、怒ったりするのも番組名物だ。レギュラー放送が終了したのは2002年。その間に各地のテレビ局に番組販売が行われ、全国区の知名度を持つバラエティとなった。
本書は、気鋭の社会心理学者が「ファンはなぜこの番組にのめり込むのか」を探った異色の研究書である。まず著者が注目するのは、早い段階でのDVD化やネット動画を通じて、繰り返し視聴を可能にしたことだ。また番組掲示板の活用により、ファンの間の「共感」を維持してきた。
さらに、著者はこの番組が持つ「身体性」を指摘する。まるで4人と一緒に旅をしているような、一種のバーチャル感を生み出す映像と音声。特に時間にしばられずに臨場感を高める編集を施したDVDは、通常のテレビ番組とは違う「体験」型の映像コンテンツとなった。
今回の研究は、全国のファン(藩士と呼ばれる)の中に、この番組を「癒し」と感じる人が多いと知ったことがきっかけだった。特に東日本大震災の被災者を精神的に支えるアイテムとなっていた。視聴者同士の間に生まれた共感の共有。それはまさに現在のソーシャルメディアでの「共有」の先駆けだったのだ。
(週刊新潮 2019.11.21号)