NHKは積極的な対話を
昨年5月、改正放送法が成立し、NHKが番組をインターネットで常時同時配信することが可能になった。深夜と早朝を除くものの、いずれ総合テレビやEテレの番組をパソコンやスマートフォンで見られるようになる。
ネットがインフラ化した現在、視聴者の利便性を考えれば、常時同時配信は自然な流れだ。NHKが常に参考としてきたイギリスの公共放送BBCでは、すでに10年ほど前から同時配信を行っている。
NHKのネット事業に対し、これまで民放側は「民業圧迫」を主張してきた。しかし、視聴スタイルの多様化を思えば、民放にとっても同時配信は重要課題だ。今月、在京キー局5社はニュース番組などを同時配信する実証実験を行う。その成果にも注目したい。
また昨年7月の参議院選挙で、「NHKから国民を守る党」(N国)が1議席を獲得。「NHKをぶっ壊す」をスローガンに、スクランブル放送(契約者だけが視聴可能なシステム)の導入を主張している。
しかし、それは現在のNHKの在り方を根底から覆すものだ。国民が広く負担する受信料によって、NHKは特定の利益や視聴率競争の影響を受けずに番組作りを行い、全国にあまねく届けることが可能になっているからだ。
とはいえ、視聴者の間に「受信料を払わずに見ている人がいる」という不公平感が存在することも事実だ。格差社会といわれる現在、他人が得をすること、自分が損をすることに過敏な人たちが増えたことも影響している。
さらに近年はNHKによる受信料訴訟が多発し、数年前には最高裁判所が受信料制度を合憲とした。つまり「受信料不払い」という意思表明の方法も閉ざされていく傾向にある。
受信料をどうとらえるか。それは「公共放送とは何か」という根本問題に関わっている。
しかもNHKは同時配信の実施によって、「公共放送」から「公共メディア」へと転身しようとしている。ならば、その「公共メディア」 は最終的にどのような姿になるのか。NHKは国民に対して、そのビジョンをより明確に、より具体的に示す必要があるだろう。
その上で、財源をどうするのかを議論すべきだ。税金、受信料、広告、有料放送などが選択肢となる。その中から受信料を選ぶなら、制度としてどう変えていくのかを検討しなくてはならない。
今年NHKがすべきことは、これらの課題に関する視聴者との積極的な対話であり、昨年まで以上のコミュニケーションを可能にする仕組みの構築だ。
(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2020.01.06)