番組サイトより
天才脳外科医、がん専門医・・・
急増する「医療ドラマ」その確実な進化
「大門未知子」のいない冬の熱き戦い
林立する「医療ドラマ」
今期のドラマで目立つのが、医師が主役で、病院が主な舞台となる「医療ドラマ」だ。
『トップナイフ―天才脳外科医の条件―』(日本テレビ)、『恋はつづくよどこまでも』(TBS)、『病院で念仏を唱えないでください』(同)、『アライブ―がん専門医のカルテ―』(フジテレビ)、そして『病院の治しかた―ドクター有原の挑戦―』(テレビ東京)と5本にもおよぶ。
なぜ、これほど医療ドラマが乱立、いや林立するのか。
作る側からすれば、「(視聴者に)見てもらえるドラマ」「他のジャンルに比べて数字(視聴率)の歩留まりがいいコンテンツ」ということになるのだろうが、もう少し、その背景を掘り下げてみたい。
第一に、しっかり作られた医療ドラマは、同時に「社会派ドラマ」でもあるということ。なぜなら、医療システムとは、社会システムそのものでもあるからだ。
現在、多くの視聴者(特に高齢者)にとって、医療は経済などと並んで大きな関心事の一つになっている。いや、医療に対する不安感や危機感が、今ほど広がっている時代はないかもしれない。
関心度が高いからこそ、週刊誌などでも医療をテーマとした特集が繰り返されている。しかも医療の世界は外部からうかがい知ることが難しい。視聴者が持つ医療そのものへの関心が、医療ドラマを支持する要因の一つとなっている。
また、医療ドラマの主人公である医師は、「強き(病気)を挫き、弱き(患者)を助ける」存在であり、本来的に「ヒーロー」の要素をもった職業だ。
ならば医療ドラマは、生と死という究極のテーマを扱う「ヒーロードラマ」ということになる。『ドクターX―外科医・大門未知子―』(テレビ朝日)などは、その典型だろう。
天才外科医ならぬ天才脳外科医『トップナイフ』
思えば、今期ドラマのラインナップには、『ドクターX』が入っていない。いわば「大門未知子」のいない冬だ。しかし大門は不在でも、個性的な女医はいる。
その一人が、『トップナイフ』の深山瑤子(天海祐希)だ。大門は「天才外科医」だが、深山は「天才脳外科医」。医学界は天才でいっぱいだが、深山は大門のようなフリーランスではない。東都総合病院の脳神経外科に所属する勤務医だ。
本当は大門と同じように手術だけやっていたいタイプだが、そうもいかない。今出川部長(三浦友和)の指示で、新メンバーの「まとめ役」を担うことになる。
ひとりは脳腫瘍では「神の手」と呼ばれる天才医師、黒岩(椎名桔平)。次が深山にもタメグチの生意気な秀才医師、西郡(永山絢斗)。そして3人目は高偏差値の「ドジっ子」研修医、幸子(広瀬アリス)だ。
第1話では深山と西郡、黒岩と幸子がそれぞれペアを組み、2つの難手術を同時に決行していた。見せ場も2倍となる、ぜいたくな展開だ。『ドクターX』の大門ワンマンショーもいいが、タイプの異なる天才たちによる「群像劇」も悪くない。
第2話でも、この同時進行パターンは踏襲された。患者は、長年「三叉神経痛」による顔面の痛みに苦しんできた女性と、見知らぬ男性を自分の恋人だと思ってしまう「フレゴリ妄想」に陥った女性だ。
このドラマでは、患者たちが手術に至るまでの背景、それぞれが抱えた事情についても丁寧に描かれている。その回だけの登場人物であっても、彼らの「その後の人生」を見たくなってくる。医療は患者の現在だけでなく、「これから」をも支えるものだと分かるのだ。
毎回、ドラマの冒頭に、「脳はこの世に残された唯一の未開の地である」という文章が表示される。確かに、1000億の神経細胞が集まった脳の複雑さは想像を超える。オーバーに言えば「神の領域」だ。
そこに踏み込む脳外科医は、脚本の林宏司が手掛けた、同名の原作小説の言葉を借りれば、「神をも恐れぬ傲慢な職業」である。
何しろ脳は体だけでなく、人格や性格など精神面も支配している。さまざまな患者たちの人生をも描く「人間ドラマ」として見応えがある
がん患者と向き合う専門医『アライブ』
もう1本、女医が活躍しているドラマが、『アライブ―がん専門医のカルテ―』だ。
こちらの特色は、舞台が「腫瘍内科」という、がん専門の診療科が舞台であること。かつては4人に1人が、がんになると言われていたが、今は2人に1人だそうだ。まだあまり知られていないが、腫瘍内科は誰もがお世話になる可能性を持つセクションかもしれない。
主人公は腫瘍内科医の恩田心(松下奈緒)。横浜みなと総合病院に勤務している。夫と息子の3人暮し。仕事と主婦と母親という負荷の大きい毎日が続いていたが、夫の匠(中村俊介)が事故で意識不明となったことで事態は一変する。
そして、他の病院から、みなと総合病院に転籍してきたのが、腕のいい消化器外科医である梶山薫(木村佳乃)だ。物語は、この2人の女医ペアを軸に展開されていく。
実は、以前薫が在職していたのは、匠が入院している関東医科大学付属中央病院だった。しかも彼女は匠の執刀医を務めていたのだ。
しかし、そこで起きたらしい医療ミスのことも含め、心は何も知らない。また、匠に関して強い自責の念を抱えている薫が、なぜ、その妻である心のいる病院に移ってきたのかは不明で、このあたり、サスペンス風でもある。
第2話では、乳がんの若い女性患者が登場した。手術では片方を切除することになると知り、彼女は将来の恋愛や結婚や出産をイメージして、立ちすくんでしまう。
すると突然、薫が「実は私も、がんサバイバーだった」と告白する。その場で衣服を脱いで、彼女に「再建した」という胸を触らせたのだ。さらに、「もしも胸の傷を気にするような男なら、それは、あなたの運命の相手じゃないから」と。
この時の木村は、背後から上半身をカメラに撮らせたまま、ワンカットですっぱりと脱いだ。それは見事な女優魂であり、おかげで説得力のあるシーンとなった。一瞬、主役は松下ではなく、木村ではないかと思ったほどだ。こうした「拮抗」が、ドラマの緊張感を生む。
第3話は、末期がん患者の女性(朝加真由美)とその家族のエピソードだった。本当は自宅で最期を迎えたいのだが、夫や嫁いでいる娘たちに迷惑をかけるからと、ホスピスに行くことを希望する。
緩和医療という難しいテーマだったが、患者本人と家族、それぞれの葛藤というリアルなストーリーを通じて、見る側も、自分たちに引き寄せて多くのことを考えることが出来た。前述した、「社会派ドラマ」としての要素がそこにある。
この第3話で、心の夫、匠が息を引き取った。事故が起きる前、小説家を目指していた匠に向かって、「いつまで待たせるの! これ以上、失望させないで」となじったことを後悔する心。医師もまた、「患者の家族」になり得るのだ。
また匠が亡くなったことは、秘密を抱える薫にも強いショックを与えた。今後の展開が大いに気になる。
進化する「医療ドラマ」
女医が活躍する医療ドラマといえば、やはり『ドクターX』が代表格だ。そこには、命を扱う緊迫感があり、善悪が明快な展開があり、見せ場としての手術があり、最後は命が救われる爽快感もある。
『トップナイフ』も、『アライブ』も、同じく女医が主役だ。しかし、『ドクターX』との単純な差別化というだけでなく、医療の現場で医師や患者が直面する、現実的な課題や苦悩をストーリーの中に巧みに取り込んでいる。
そして、そこでの医師は、いわゆるスーパーヒーローではなく、悩みや迷いを抱えた一人の人間として描かれており、見る側の共感もそこから生まれる。医療ドラマもまた確実に進化しているのだ。