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NHK朝ドラ「エール」 夫婦愛が彩る「応援歌」に

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<週刊テレビ評>

NHK朝ドラ「エール」 

夫婦愛が彩る「応援歌」に

  

この春、NHKの連続テレビ小説「エール」が始まった。主人公は作曲家の古山裕一(窪田正孝)。モデルは古関裕而(ゆうじ)だ。

古関が昭和を代表する作曲家の一人なのは確かだ。しかし、当時健在だった山田耕筰(こうさく)、また古賀政男や服部良一でもなく、彼を取り上げたのはなぜか。

1964(昭和39)年の東京オリンピック、開会式の入場行進曲「オリンピック・マーチ」の作者であることが大きい。

それはこのドラマの初回で明らかだ。冒頭こそ「原始時代」からスタートする奇策だったが、舞台は開会式当日の国立競技場へと飛び、初老の古山夫妻が現れた。

そして回想シーンには、昨年の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」で阿部サダヲが演じた、田畑政治と思われる黒縁メガネの人物も登場。

「(日本が)復興を遂げた姿を、どーだ!と世界に宣言する。先生はその大事な開会式の音楽を書くわけですから責任重大ですぞ!」とプレッシャーをかけていた。「いだてん」から「エール」へのバトンリレーだ。

そんな「エール」だが、今や幻となった今年の東京オリンピックを意識した企画であることを超えて、多くの人が楽しめる“朝ドラ”になっている。

その第1の要因は、この作品が古山裕一だけを描くのではなく、オペラ歌手を目指していた妻、音(二階堂ふみ)との「夫婦ドラマ」としたことだ。それぞれに1週分を使って二人の

幼少時代をじっくりと見せ、3週目からは文通に始まる純愛物語が展開されている。生い立ちや背景、性格描写も丁寧で、見る側が「愛すべき主人公たち」として受け入れることがききた。

第2のポイントは、「音楽ドラマ」という骨格だ。蓄音機、レコード、ハーモニカで育ち、やがて五線紙と向き合うようになった裕一。

教会の賛美歌に感動し、人気オペラ歌手(柴咲コウ)に憧れて声楽を学ぶ音。二人の人生が重なることで、日常的に音楽が存在するドラマになっている。

古関裕而は数々のヒット歌謡で知られているが、その作品は実に多彩だ。

「若い血潮の予科練の」という歌詞の軍歌「若鷲(わし)の歌」、阪神タイガースの応援歌「六甲颪(おろし)」、映画で小美人を演じたザ・ピーナッツの「モスラの歌」、さらに敗戦から4年後に出た「長崎の鐘」。音楽に彩られた「昭和ドラマ」が期待できそうだ。

タイトルの「エール」だが、元々はオリンピックのアスリートたちを応援する意味が込められていたはずだ。期せずしてではあるが、コロナ禍に見舞われたこの国と、そこに暮らす私たちを励ますドラマになってくれたらありがたい。

(毎日新聞「週刊テレビ評」2020.05.02)

 


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