キムタクの演技も大好評…! 最終回を迎える『BG~身辺警護人~』の深化
今夜、木村拓哉主演『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)の最終回が放送される。第1シーズンから木村の演技もドラマの脚本も深みを増している。ラストも気になるところだが、そもそも「警護ドラマ」とは何か? メディア文化評論家の碓井広義氏が刑事・警備・警護ドラマの系譜を分析する。
警備ドラマ」の原点となった『ザ・ガードマン』刑事を主人公とした「刑事ドラマ」の歴史は古く、その数も膨大なものになる。しかし、刑事ならぬ警備員を主人公にした「警備ドラマ」ということになると、まず思い浮かぶのが『ザ・ガードマン』(TBS系)だ。
昭和の東京オリンピックが開催された翌年、1965年の春に始まり、71年の冬まで続いた。7年近くで、全350話。当時、いかに人気を博していたかが分かる。
物語の舞台は、民間警備会社の「東京パトロール」。日本初の警備会社で、実在の「日本警備保障」(現在のセコム)をモデルとしていた。
高倉キャップを演じた宇津井健をはじめ、神山繁、中条静夫、稲葉義男、藤巻潤といった顔が懐かしい。警察以上の捜査力、いや「調査力」と「行動力」で犯人を追いつめていく様子にドキドキしたものだ。
警備会社らしく、現金輸送車襲撃事件などは何度も作られたし、また夏場には怪奇・ホラー物と言うべき内容が放送された。
今思えば、警備の仕事から大きく外れていたものも多かったが、そんなことは誰も気にしなかった。「警察以外の組織と人が悪に立ち向かう」という設定自体にインパクトがあったのだ。
人間ドラマとしての『男たちの旅路』次に挙げるべき「警備ドラマ」は、山田太一脚本『男たちの旅路』シリーズ(1976~82年)だ。NHK「土曜ドラマ」史上というより、ドラマ史上の名作の一つと言っていい。
警備会社のガードマンとして働く特攻隊の生き残り、司令補の吉岡晋太郎(鶴田浩二)の印象が今も消えない。部下である杉本陽平(水谷豊)、柴田竜夫(森田健作)、島津悦子(桃井かおり)たちとの世代間ギャップも、世代を超えた人間としてのぶつかり合いも、それまでのドラマにはなかった視点と緊張感に驚かされた。
たとえば、77年放送の「シルバーシート」。杉本(水谷)と悦子(桃井)が担当していたのは「空港警備」だ。いつも構内で本を読んでいる本木老人(志村喬)を、他のガードマンたちは邪魔者扱いするが、2人は何かと気遣っていた。
そんな本木がロビーで亡くなってしまう。彼が暮らしていた老人ホームを訪れ、本木の仲間たちと出会う杉本と悦子。だが数日後、その老人たち(笠智衆、殿山泰司、加藤嘉、藤原釜足)が都電を占拠し、立てこもる。
彼らの言い分から浮かび上がる、「老いた人」を敬わない社会の理不尽と切なさ。警備ドラマというジャンルを超え、人間ドラマとしての深みに達したこの作品は、昭和52(1977)年度の芸術祭大賞を受賞した。
「身辺警護」という新たな現場『4号警備』『男たちの旅路』から35年後の2017年春、同じNHK「土曜ドラマ」枠で放送されたのが『4号警備』だ。
民間の警備会社における区分で、1号警備とは「施設警備」のことを指す。2号は「雑踏警備」で、3号は「輸送警備」。そして、いわゆる「身辺警護」を行うのが4号警備だ。わかりやすく言えば「ボディーガード」である。
主人公は警備会社「ガードキーパーズ」の警備員で、元警察官の朝比奈準人(窪田正孝)。そして年長者の石丸賢吾(北村一輝)だ。時に暴走してしまう朝比奈を、石丸が抑えたり、追いかけたりする形で物語が展開されていく。
遺産相続がらみで盲目の男性を守ったり、ストーカーに狙われている女性を助けたり。またブラック企業といわれる不動産会社の社長(中山秀征)や選挙運動中の市長候補(伊藤蘭)が対象だったりと、2人は大忙しだった。
いずれのケースでも、単なる身辺警護ではなく、警護すること自体が、相手が抱えている悩みや問題の解決につながっていく。しかもそれが、朝比奈自身や石丸自身が抱えている葛藤ともリンクしていた。
毎回読み切りで30分という短い時間だったが、窪田や北村の好演を支えた宇田学(『99.9-刑事専門弁護士-』など)の脚本は、テンポの良さと中身の濃さの両立を目指して善戦していた。 この『四号警備』によって、「警備ドラマ」から「警護ドラマ」への道筋が開かれたのだ。
警護ドラマの秀作『BG~身辺警護人~』第1章木村拓哉主演『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)が登場したのは2018年。井上由美子のオリジナル脚本だった。
井上は『GOOD LUCK!! 』(TBS系)や『エンジン』(フジテレビ系)など、木村の主演ドラマを何本も手掛けてきたベテラン脚本家。当時、久しぶりのタッグの舞台がテレビ朝日という点も注目を集めた。
2015年に木村が主演を務めたのが、テレ朝の『アイムホーム』だ。このとき木村は、「他者の顔が仮面に見えてしまう」という不安定な立場と複雑な心境に陥った男を見事に演じてみせた。
これで「俳優・木村拓哉」が確立するかと思いきや、次に主演した『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)が、脚本の凡庸さもあり、再び“キムタクドラマ”へと後退してしまったのだ。
そして『BG』である。まず、刑事ドラマならぬ「警護ドラマ」としての骨格がしっかりしていた。
同じボディーガードでも、警視庁のSPと違って民間警護人には捜査権がない。また銃などの武器も持てない。そのハンディをどう補い、いかにして対象者を守るのかが見所だった。
木村は、かつての失敗をトラウマとして抱えながらも、体を張って(痛い目に遭いながら)警護の責任を果たす主人公、島崎章を抑制された演技で好演する。
裏で支えていたのは井上脚本であり、『アイムホーム』も演出した七高剛監督である。さらに警視庁SPの江口洋介や警備会社上司の上川隆也なども、このドラマの成功に寄与していた。
深化した『BG~身辺警護人~』第2章2年前の第1シーズンとの大きな違いは、主人公の島崎章(木村)が組織を離れたことだろう。警備会社を買収したIT系総合企業社長の劉光明(仲村トオル)が、利益のためなら社員の命さえ道具扱いする人物であることを知ったからだ。
いわばフリーランスのBG(ボディーガード)となった島崎。最初の依頼人は業務上過失致死罪で服役していた、元大学講師の松野(青木崇高)だった。
女性研究員が窒息死した事故の責任を問われた松野が、出所後は指導教授(神保悟志)に謝罪するために大学へ行こうとしており、警護を頼んできたのだ。
しかも研究員の死には隠された事実があった。島崎は万全のガードを行いつつ、松野の言動にも注意を怠らない。チームによる警護から個人作業へ。そこから生じる島崎の緊張感を、木村が丁寧に表現していた。
前シーズンでは警護する相手として政財界のVIPが多く、残念ながら物語がやや類型的になっていた。しかし、今回からは対象者の幅が広がっている。
たとえば第2話、盲目のピアニスト(川栄李奈)の場合、彼女の身体だけでなく、彼女の折れかけていた「演奏する心」まで護(まも)っている。「警護」の意味が、より深まっているのだ。
また第6話では、シャッター商店街でカレー食堂を営む女主人(名取裕子)を、立ち退きを要求する不良家主やその取り巻きからガードしていた。法的な問題もあり、最後には店を閉じることになるが、女主人から「私の大切な日常を護ってくれて、ありがとう」と感謝される。
フリーになった島崎が開設した事務所に、前シーズンでは何かと対立してきた高梨雅也(斎藤工)を参加させたことも、テレ朝が得意な「バディ(相棒)物」に寄せた、巧みな仕掛けだ。設定の大胆な変更が「深化」として結実している。
「刑事ドラマ」へのカウンターとして出発した「警備ドラマ」。それがさらに「警護ドラマ」へと発展し、現在の到達点として今回の『BG』がある。
「相手が誰でも警護するのがプロ」と自負する島崎に対して、いわば宿敵である劉光明(仲村)自身が警護を依頼してきた。果たして島崎は、劉の何を護るのか。そしてドラマ全体の大団円をどう迎えるのか。最後まで目が離せない。