東武鉄道
SL大樹「It’s SLOW time」
ゆっくりだから見えるもの
今、仕事や生活、いや社会全体が急速変わってきている。それに順応しようと頑張りながら、ふとため息をつく人も多いのではないか。そんな時、門脇麦さんは「スロータイムな旅」に出る。
乗り込むのは東武鉄道の東武鬼怒川線の蒸気機関車。「SL大樹」の愛称を持つ人気者だ。鮮やかなブルーの客車を引っ張り、早すぎないスピードで走る。車窓の風景もゆるやかに流れる、贅沢な時間だ。
この機関車は激動の昭和から令和の現在まで、80年の時代の変化を見てきた。鉄の塊なのに、どこか人間らしさが漂う。
「機関車」という詩の中で、敬愛を込めて「律儀者の大男」と表現したのは作家の中野重治だ。「町と村々とをまっしぐらに駆けぬけて行くのを見るとき/おれの心臓はとどろき/おれの両眼は泪(なみだ)ぐむ」
ゆっくりだから出会える景色があり、ゆっくりだから気づく人の優しさがある。今年の夏は特にそう思う。
(日経MJ「CM裏表」2020.08.17)