<ニュースQ3>
ゲーム登場・愛称
「キャラ化」する政治家
自民党総裁選を前に、政治家がキャラクター化して親しみやすさをまとう動きが目立つ。人気ゲームへの登場を計画してみたり、ネット上で愛称をつけられたり。政治家の「キャラ化」がもたらすものとは何か。
■自民総裁選を前に
石破茂元幹事長の陣営は6日、任天堂の人気ゲーム「あつまれ どうぶつの森」(あつ森)を総裁選に活用する構想を発表した。石破氏をモデルにした「じみん島」の「いしばちゃん」を登場させる計画だったが、政治的な主張を含むものの利用を禁じる任天堂の規約に反する可能性があるとの指摘が寄せられ、8日には計画を断念した。
メディア文化評論家の碓井広義さんは「親しみやすさを演出する狙いがあるのだろう」と指摘する。
岸田文雄政調会長は自身を「『キッシー』と呼んで」とアピールし始めた。10日、自民党のインターネット番組「カフェスタ」の総裁選特番は、岸田氏がツイッターの「#生キッシー」で寄せられた質問に答える試みだった。
「総理お疲れ様でした!」。国会のみやげ店「国会ギフト 思い出屋」には、安倍晋三首相のイラストが描かれたグッズや菓子が並ぶ。「安倍さんまんじゅう」に替わるものとして用意されているのが「菅さんまんじゅう」。「就任祝い」として総裁選翌日の15日から店頭に並べられるよう準備中だ。クッキーにつける予定の菅義偉官房長官のイラストは、実物よりかわいらしく見える。同店の中田兵衛代表は「怖い顔にしたって売れない」と笑う。「こうしてキャラ化していれば、あまり政治に興味のない方も、手に取りやすいんでしょうね」
■「ネタ」として消費
キャラ付けはネットの世界でも広がる。ツイッターでは、菅氏の画像が「#令和おじさん」「#パンケーキおじさん」として拡散。菅氏が新元号発表の記者会見をし、メディアの取材に好物はパンケーキと答えていることなどからついた愛称だ。碓井さんは「自分たちが楽しめれば、総理候補であろうとネタとして消費するのがSNSの特徴」と話す。
また、土井隆義・筑波大教授(社会学)は「ネット上は見せる情報をコントロールしやすいので、リアルよりキャラ化しやすい」と指摘。本来、人間のパーソナリティーは複雑だが、キャラ化することで人物像がつかみやすくなる。「政治家は特に、政治信条や政策など主義主張がわかりにくい。見かけや振る舞いから政治家をキャラ化し人物像を単純化することによって、有権者は支持するかどうか決めやすくなる。政治家は自分を印象づけやすく、インパクトを与えられる。有権者と政治家、お互いが求める形で政治家はキャラ化していく」と分析する。
「キャラ化の波にのれなければ世間の話題にもならない。選挙戦が政策論争にならない『脱政治家』の時代になっているといえるかもしれない」
■「中身の報道を」
メディアの報じ方が政治家の一面を印象づけることになっていないか。碓井さんは、菅氏について、「『たたき上げ』というワンパターンの表現が多い」と指摘する。「『庶民の味方』という良いイメージを植え付ける。政治家としての中身を報道すべきだ」と苦言を呈する。【永野真奈】
(朝日新聞 2020.09.12)