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産経新聞で、「半沢直樹」について解説

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「半沢直樹」が示したドラマの可能性 

見せ場に快哉、型の美ピタリ

日曜劇場「半沢直樹」(TBS系)は9月27日に最終回を迎え、大和田暁(香川照之(てるゆき))の「あばよー!」とともに幕を閉じた。組織と個人の相克を重厚かつコミカルに描き、勧善懲悪のストーリーで視聴率は全回20%超を記録する「令和の時代劇」となった。大ヒットに大きな役割を果たしたのは芸達者な歌舞伎役者らだ。ネットとの厳しい競争にさらされる地上波ドラマに、なお可能性が残されていることを示したようだ。(三宅令)

 ◆異分野から次々

中高年の男性だけではなかった。「おしまいDEATH(デス)!」「千倍返しだ!」-。こんな強烈なシーンは子供がまねをするほどに。都内の会社員の女性(42)は「見ていないと小学校での話題についていけないみたい」と話す。SNSには終了を惜しむ声が渦巻き、ドラマを一度でもリアルタイムで見た人は6千万人を超えるという。

主役の半沢直樹を演じる堺雅人(まさと)や香川に加え、7年前の前作とは違った存在感を放ったのは、いわゆる“ドラマ俳優”以外の出演者だった。お笑い芸人の角田晃広(かくた・あきひろ)、児嶋一哉(かずや)、“土下座後ずさり”で話題となった劇作家の佃典彦(つくだ・のりひこ)、声優の宮野真守(まもる)らだ。とりわけ数々の名場面を生み出し、人気に大きく貢献したのが歌舞伎役者だった。

物語のキーパーソンである香川と市川猿之助(えんのすけ)、片岡愛之助と尾上松也(おのえ・まつや)の4人、さらには8話から登場した浅野和之も歌舞伎の舞台経験者。猿之助は「“歌舞伎役者”として(ドラマに)出ている」と話したこともあり、各話の随所に歌舞伎のエッセンスがちりばめられていた。

 ◆顔芸・舞台演出・見得

例えば、7話で曾根崎(佃)に「さあさあさあ」と、大和田と半沢が詰め寄るのは、歌舞伎の「繰り上げ」と呼ばれる手法。張りのある声、鍛えられた表情筋での“顔芸”もテレビ離れした迫力だった。

日本大芸術学部の中町綾子教授は「映像表現も歌舞伎を見ているかのようだった」と指摘する。舞台上を思わせる奥行きのあるカメラワーク、見得(みえ)を切るようなカット割り。「音楽の使い方も独特だった」と振り返った。

伝統芸能には感情表現をする動きに型(かた)があり、その組み合わせで複雑な心情も表現する。それが現代ドラマに生かされた形だ。

メディア文化評論家の碓井広義氏も「これまでにないほど歌舞伎と近づいたドラマだった」。それに加え、「閉塞感(へいそくかん)を打ち破る痛快なストーリー、見せ場の連続が視聴者の関心を離さなかった」との分析だ。「今回の高視聴率でさらに、ドラマでのオーバーアクション、いわば“歌舞伎的”な見せ場作りが重要視されていく可能性もある」と語った。

 ◆放送と配信、見極め

一方、今回の最終回は平均視聴率32・7%と、7年前の最終回42・2%には遠かった。

碓井氏は「前作は最終回の逆転劇が際立っていたが、今作は見せ場を詰め込み、1話ずつでも楽しめる構成だったからではないか」と推測する。

ドラマの中身とは別に、「半沢直樹」では「放送」と「配信」の“実験”が行われていたと指摘する声もある。TBSは他の多くのドラマとは扱いを変え、最終回直前までネットでの「見逃し配信」を行わなかった。一般的な「視聴率」には反映されない「録画視聴」が増えている実態と合わせて、今後「誰にどのように見られているか」の詳しい分析がされ、民放の配信事業の手法・あり方に影響を与える可能性もありそうだ。

(産経新聞 2020.10.02)


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