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【書評した本】 武田 徹『現代日本を読む』

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物語るジャーナリズム

ノンフィクションの可能性

 

武田  徹

『現代日本を読む

 ~ノンフィクションの名作・問題作』

中公新書 990円

 

武田徹『現代日本を読む―ノンフィクションの名作・問題作』は、いわゆる読書案内ではない。本書自体がノンフィクションをテーマとする「ノンフィクション作品」であり、「ノンフィクション論」だ。

自身もその書き手である著者は、ノンフィクションを「物語るジャーナリズム」と仮定する。個別の事実を再構成し、因果関係を明らかにしながら、ある出来事や事件として語っていくからだ。そこでは「語り手」の存在も重要になる。

名作と定評のある石牟礼道子『苦海浄土―わが水俣病』。再現性の高い「聞き書き」と思われているが、石牟礼は患者の家に足繁く通ったりしなかった。実は「相手の心のなかの声を自分が代弁して語りとして描いた」のだ。著者はこの作品を梃子に、「事実的な文章」と「物語的な文章」について考察していく。

また沢木耕太郎の『テロルの決算』や『一瞬の夏』をテキストにして、「ニュージャーナリズム」の方法論を検証する。他者から話を聞いて「シーン」を構成する三人称の視点。自分の目で見たものだけを書いていく一人称の視点。沢木が辿った試行錯誤のプロセスがスリリングだ。

ノンフィクションがジャーナリズムであるならば、登場人物の心理だけでなく「対象者と社会との関わり」も描く必要があると著者は言う。それはまた「世界を作品化」することだ。本書に並ぶ28作の先にある、ノンフィクションの更なる可能性も見えてくる。

(週刊新潮 2020.10.29号)

 

 

 

現代日本を読む―ノンフィクションの名作・問題作 (中公新書)   武田 徹 中央公論新社

 


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