咲き乱れる「恋愛ドラマ」
富士には月見草がよく似合う。「富嶽百景」に記された太宰治の有名な言葉だ。それにならえば、秋には「恋愛ドラマ」がよく似合うのかもしれない。今期は百花繚乱である。
まずは「#リモラブ~普通の恋は邪道~」(日本テレビーSTV)。特色はコロナ禍の現実をドラマに取り込んだことだ。
大桜美々(波留)は社内のコロナ対策を担う優秀な産業医。恋愛は「さぼってきた」という彼女がスマホで出会った「謎の男性」に恋をする。だが結局正体は周囲の人物であり、物語は期待ほど膨らまない。「普通の恋」になりそうで残念だ。
次の「恋する母たち」(TBS-HBC)は「東京ラブストーリー」などの人気漫画家、柴門ふみの同名作品が原作。脚本は恋愛ドラマの大家、大石静だ。バリバリの不倫物である。同じ私立高校に息子を通わせる3人の母親(木村佳乃、吉田羊、仲里依紗)が同時に恋に落ちる。
お相手は自分の夫と駆け落ちした人妻の元夫。同じ部署で働く年下の部下。そして複数の離婚経験をもつ人気落語家だ。もしもこの中の一つだけが描かれるドラマなら、すぐに飽きてしまっただろう。三人の女性と三つの家庭と三組の恋愛で「合わせ技一本」を狙うが、設定と人物像がどこまで見る側の共感を得ているのか心配だ。
恋愛ドラマの三本目は「この恋あたためますか」(同)になる。最近は「おにぎり」だけでなく、「恋」もあたためるものらしい。スイーツマニアだったことからコンビニに並ぶ商品の開発に関わることになった元アルバイト、井上樹木(森七菜)。オリジナルスイーツで勝負したい野心家のコンビニ社長、浅羽拓実(中村倫也)。
ちょっと懐かしくて、ありがちな「格差恋愛」パターンだが、森という「新鮮素材」を投入したことで見るべきドラマになっている。NHK朝ドラ「エール」におけるヒロイン(二階堂ふみ)の妹役も悪くないが、喜怒哀楽を全身で表現する森の魅力は主役でこそ生きると言っていい。
最後は「姉ちゃんの恋人」(フジテレビ―UHB)である。安達桃子(有村架純)は高校時代に両親を事故で失った。ホームセンターで働きながら三人の弟の面倒をみるけなげな姉だ。そんな桃子が同僚の吉岡真人(林遣都)に恋をした。
明るい桃子と少し影のある吉岡。対照的な二人の「もどかしい恋」の行方が気になる。桃子に朝ドラ「ひよっこ」のみね子が重なるのは脚本が同じ岡田惠和だからか。「ひよっこ」同様、見る側に「この子には不幸になってほしくない」と思わせる展開はさすがだ。
(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2020.11.07)