ハワイ島 2013
「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2013年のテレビ。
ついに12月です。
追いつきました(笑)。
2013年 テレビは何を映してきたか (12月編)
「オリンピックの身代金」 テレビ朝日
先週末、テレビ朝日が2夜連続で「オリンピックの身代金」を放送した。1964年の夏、東京五輪をめぐって繰り広げられる緊迫のサスペンスだ。
東大院生・島崎(松山ケンイチ)の兄が五輪施設の工事現場で急死する。出稼ぎとして無理を重ねた結果だった。日本の経済成長を支えながらその犠牲となる人々と、置き去りにされる地方の現実に憤った島崎は、国家を相手の犯行計画を練る。
事件を追うのは捜査一課の落合(竹野内豊)。自身の戦争体験、妹・有美(黒木メイサ)と島崎の関わりなど、その心中は複雑だ。藤田明二監督は正攻法で男たちの心情と行動を描いていく。50年前の東京や群衆シーンにも手抜きはない。全体として大人の鑑賞に耐える堂々の大作となった。
それにしてもこの豪華なキャストはどうだ。メインはもちろん、天海祐希、江角マキコ、唐沢寿明、沢村一樹、柄本明などが出演時間の長短に関わらず脇を固めていた。20年ほど前、売れっ子俳優や人気タレントの中には「2ケタの局には出ない」とうそぶく人たちもいたのだ。2ケタとは当時のテレビ朝日が10チャンネル、テレビ東京が12チャンネルだったことを指す。思えば隔世の感だ。
この企画は7年後の東京五輪開催の決定前から進んでいた。いわば賭けであり、それに勝つのもまた現在のテレ朝らしい。
(2013.12.03掲載)
「太陽の罠」 NHK
NHK土曜ドラマ「太陽の罠」は3つの側面をもつ。まず太陽光発電とその特許をめぐる企業ドラマであること。次に1人の女をはさんで2人の男が対峙する恋愛ドラマ。そして全体の仕立てはサスペンスドラマだ。
太陽光パネルの開発に社運を賭けるメイオウ電機が、パテント・トロールと呼ばれるアメリカの特許マフィアから訴訟を起こされる。社内の情報漏えいが指摘され、ある若手社員(AAAの西島隆弘、熱演)が疑われる。しかも彼は開発部長(伊武雅刀)に対する殺人未遂の罪まで背負わされてしまうのだ。
事件の背後には西島の上司(尾美としのり)や年上の妻(伊藤歩)、謎の企業コンサルタント(塚本高史)などがいる。彼らもそれぞれ秘密を抱えているところがミソだ。そうそう、刑事役の吉田栄作も中年男のいい味を出している。
脚本は大島里美(「恋するハエ女」で市川森一賞)のオリジナル。企業、恋愛、サスペンスの3要素を盛り込みながら、視聴者にどのタイミングで何をどこまで教えるのか、その計算が実に緻密だ。おかげで、見る側も幻惑されながら推理を楽しむことができる。
現在、全4回のうち前半が終わったところだ。特許戦争の行方。尾美の精神状態。伊藤の真意。塚本の狙い。そして西島の決着。まさにここからが佳境だろう。
(2013.12.10掲載)
「林修先生の今やる!ハイスクールSP」 テレビ朝日
日本人は学ぶことが好きだ。また、教えられ好きでもある。「世界一受けたい授業」(日本テレビ)や「そうだったのか!学べるニュース」(テレビ朝日)のようなバラエティは、この特性を活かしたものだ。
先週金曜に放送された「林修先生の今やる!ハイスクールSP」(テレビ朝日)も、そんな“教えて!系”バラエティーの1本だ。林といえば、例の「今でしょ!」が流行語大賞を受賞。今年、各局で引っ張りダコだった文化人の一人だ。
とはいえ、この番組の林は教える立場ではない。逆に生徒となって学ぶというのがミソだ。しかも講師として登場したのが作家の百田尚樹。『永遠の0』『海賊とよばれた男』などのベストセラーを放ち、最近ではNHK経営委員への抜擢が話題となった。こちらもまた「時の人」である。
今回の講義は「ベストセラーの作り方」がテーマだ。出版界の現状、作品づくり、作家の収入など具体的な話が並んだ。たとえば小説は頭から書かず、書きたい場面をストックしていき、最後に再構成する。また書店員を味方につけるのが本を売る秘訣だという。
何しろ生徒役が林と伊集院光なので、百田先生も教え甲斐がある。見る側もつい身を乗り出す説得力があった。仕掛けと工夫次第で、“教えて!系”バラエティーのブームは来年も続きそうだ。
(2013.12.17掲載)
「TV見るべきものは!!」年末拡大SP 総括!2013年のテレビ
日本でテレビ放送が開始されてから60周年を迎えた2013年。将来編まれる放送史には、「あまちゃん」(NHK)と「半沢直樹」(TBS)の年だったと記されるはずだ。近年その凋落ぶりばかりが話題となっていたテレビだが、中身によっては見る人たちの気持ちを動かせることを再認識させた意義は大きい。
しかし、その一方でテレビが自らの首を絞めるような不祥事も多かった。まず、ガチンコ対決を標榜してきた「ほこ×たて」(フジテレビ)のヤラセ問題だ。「どんな物でも捕えるスナイパー軍団vs.絶対に捕らえられないラジコン軍団」で、対決の順番を入れ替えるなど偽造を施していたのだ。また、猿とラジコンカーの勝負では、猿の首に釣り糸を巻いてラジコンカーで引っ張り、猿が追いかけているように見せていたという。特に後者は動物虐待でもある悪質な演出だ。
さらに問題なのは、過去の真剣勝負まで疑いの目で見られたことだろう。町工場の職人技など、「モノづくり日本」の底力をバラエティーの形で見せてきた功績も、視聴者を裏切る形で損なわれてしまった。一連の背後には、かつての「発掘!あるある大事典?」(関西テレビ)のデータねつ造事件と同様、テレビ局と制作会社の関係における構造的な問題も存在する。BPO(放送倫理検証機構)はこの件の審議入りを決めたが、ぜひ深層にまでメスを入れて欲しい。
次に、テレビ朝日のプロデューサーによる1億4千万円の横領事件。制作会社に架空の代金を請求するという、あまりに古典的かつ不用意な手口と金額の大きさに呆れるばかりだ。新2強時代といわれ、視聴率で日本テレビとトップ争いをするまでになったテレビ朝日のイメージダウンだけでなく、テレビ業界全体の体質とモラルが疑われる事件だった。
また、今年はみのもんたの番組降板騒動もあった。本人は降板の理由を、次男が窃盗未遂容疑で逮捕されたことによる「親の責任」に限定していたが、それだけではないことを視聴者は知っている。社長を務める水道メーター会社が関わった談合問題、取材対象でもある政治家たちとの近い距離、度重なるセクハラ疑惑など不信感の蓄積があったのだ。
同時に、視聴率を稼ぐタレントであること、局の上層部と関係が深いことなどから、毅然たる判断を保留し続けたTBSに対しても視聴者は冷ややかな目を向けた。前述のヤラセ問題や横領事件などと併せて、「所詮テレビはこんなもの」と思わせてしまったことは、身から出た錆とはいえ残念でならない。
最後に特定秘密保護法である。正面切ってこの悪法に反対したテレビ局があっただろうか。いや、百歩譲って、この悪法の問題点をどこまで本気で伝えただろうか。報道機関として自身も多くの制約を受けることよりも、政権や監督官庁の顔色を気にして鳴りを潜めていたとしか言いようがない。こうした態度もまたテレビへの不信感を助長させるものだ。
「あまちゃん」と「半沢直樹」で、一時的とはいえ輝きを見せたテレビ。来年の盛り上がりが、ソチオリンピックとワールドカップ・ブラジル大会だけでないことを祈りたい。
(2013.12.24掲載)
・・・・今年も、この日刊ゲンダイの連載をご愛読いただき、ありがとうございました。
年明け、2014年の「TV見るべきものは!!」は、1月第2週からスタート。
来年も、どうぞよろしく、お願いいたします!
「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2013年のテレビ。
ついに12月です。
追いつきました(笑)。
2013年 テレビは何を映してきたか (12月編)
「オリンピックの身代金」 テレビ朝日
先週末、テレビ朝日が2夜連続で「オリンピックの身代金」を放送した。1964年の夏、東京五輪をめぐって繰り広げられる緊迫のサスペンスだ。
東大院生・島崎(松山ケンイチ)の兄が五輪施設の工事現場で急死する。出稼ぎとして無理を重ねた結果だった。日本の経済成長を支えながらその犠牲となる人々と、置き去りにされる地方の現実に憤った島崎は、国家を相手の犯行計画を練る。
事件を追うのは捜査一課の落合(竹野内豊)。自身の戦争体験、妹・有美(黒木メイサ)と島崎の関わりなど、その心中は複雑だ。藤田明二監督は正攻法で男たちの心情と行動を描いていく。50年前の東京や群衆シーンにも手抜きはない。全体として大人の鑑賞に耐える堂々の大作となった。
それにしてもこの豪華なキャストはどうだ。メインはもちろん、天海祐希、江角マキコ、唐沢寿明、沢村一樹、柄本明などが出演時間の長短に関わらず脇を固めていた。20年ほど前、売れっ子俳優や人気タレントの中には「2ケタの局には出ない」とうそぶく人たちもいたのだ。2ケタとは当時のテレビ朝日が10チャンネル、テレビ東京が12チャンネルだったことを指す。思えば隔世の感だ。
この企画は7年後の東京五輪開催の決定前から進んでいた。いわば賭けであり、それに勝つのもまた現在のテレ朝らしい。
(2013.12.03掲載)
「太陽の罠」 NHK
NHK土曜ドラマ「太陽の罠」は3つの側面をもつ。まず太陽光発電とその特許をめぐる企業ドラマであること。次に1人の女をはさんで2人の男が対峙する恋愛ドラマ。そして全体の仕立てはサスペンスドラマだ。
太陽光パネルの開発に社運を賭けるメイオウ電機が、パテント・トロールと呼ばれるアメリカの特許マフィアから訴訟を起こされる。社内の情報漏えいが指摘され、ある若手社員(AAAの西島隆弘、熱演)が疑われる。しかも彼は開発部長(伊武雅刀)に対する殺人未遂の罪まで背負わされてしまうのだ。
事件の背後には西島の上司(尾美としのり)や年上の妻(伊藤歩)、謎の企業コンサルタント(塚本高史)などがいる。彼らもそれぞれ秘密を抱えているところがミソだ。そうそう、刑事役の吉田栄作も中年男のいい味を出している。
脚本は大島里美(「恋するハエ女」で市川森一賞)のオリジナル。企業、恋愛、サスペンスの3要素を盛り込みながら、視聴者にどのタイミングで何をどこまで教えるのか、その計算が実に緻密だ。おかげで、見る側も幻惑されながら推理を楽しむことができる。
現在、全4回のうち前半が終わったところだ。特許戦争の行方。尾美の精神状態。伊藤の真意。塚本の狙い。そして西島の決着。まさにここからが佳境だろう。
(2013.12.10掲載)
「林修先生の今やる!ハイスクールSP」 テレビ朝日
日本人は学ぶことが好きだ。また、教えられ好きでもある。「世界一受けたい授業」(日本テレビ)や「そうだったのか!学べるニュース」(テレビ朝日)のようなバラエティは、この特性を活かしたものだ。
先週金曜に放送された「林修先生の今やる!ハイスクールSP」(テレビ朝日)も、そんな“教えて!系”バラエティーの1本だ。林といえば、例の「今でしょ!」が流行語大賞を受賞。今年、各局で引っ張りダコだった文化人の一人だ。
とはいえ、この番組の林は教える立場ではない。逆に生徒となって学ぶというのがミソだ。しかも講師として登場したのが作家の百田尚樹。『永遠の0』『海賊とよばれた男』などのベストセラーを放ち、最近ではNHK経営委員への抜擢が話題となった。こちらもまた「時の人」である。
今回の講義は「ベストセラーの作り方」がテーマだ。出版界の現状、作品づくり、作家の収入など具体的な話が並んだ。たとえば小説は頭から書かず、書きたい場面をストックしていき、最後に再構成する。また書店員を味方につけるのが本を売る秘訣だという。
何しろ生徒役が林と伊集院光なので、百田先生も教え甲斐がある。見る側もつい身を乗り出す説得力があった。仕掛けと工夫次第で、“教えて!系”バラエティーのブームは来年も続きそうだ。
(2013.12.17掲載)
「TV見るべきものは!!」年末拡大SP 総括!2013年のテレビ
日本でテレビ放送が開始されてから60周年を迎えた2013年。将来編まれる放送史には、「あまちゃん」(NHK)と「半沢直樹」(TBS)の年だったと記されるはずだ。近年その凋落ぶりばかりが話題となっていたテレビだが、中身によっては見る人たちの気持ちを動かせることを再認識させた意義は大きい。
しかし、その一方でテレビが自らの首を絞めるような不祥事も多かった。まず、ガチンコ対決を標榜してきた「ほこ×たて」(フジテレビ)のヤラセ問題だ。「どんな物でも捕えるスナイパー軍団vs.絶対に捕らえられないラジコン軍団」で、対決の順番を入れ替えるなど偽造を施していたのだ。また、猿とラジコンカーの勝負では、猿の首に釣り糸を巻いてラジコンカーで引っ張り、猿が追いかけているように見せていたという。特に後者は動物虐待でもある悪質な演出だ。
さらに問題なのは、過去の真剣勝負まで疑いの目で見られたことだろう。町工場の職人技など、「モノづくり日本」の底力をバラエティーの形で見せてきた功績も、視聴者を裏切る形で損なわれてしまった。一連の背後には、かつての「発掘!あるある大事典?」(関西テレビ)のデータねつ造事件と同様、テレビ局と制作会社の関係における構造的な問題も存在する。BPO(放送倫理検証機構)はこの件の審議入りを決めたが、ぜひ深層にまでメスを入れて欲しい。
次に、テレビ朝日のプロデューサーによる1億4千万円の横領事件。制作会社に架空の代金を請求するという、あまりに古典的かつ不用意な手口と金額の大きさに呆れるばかりだ。新2強時代といわれ、視聴率で日本テレビとトップ争いをするまでになったテレビ朝日のイメージダウンだけでなく、テレビ業界全体の体質とモラルが疑われる事件だった。
また、今年はみのもんたの番組降板騒動もあった。本人は降板の理由を、次男が窃盗未遂容疑で逮捕されたことによる「親の責任」に限定していたが、それだけではないことを視聴者は知っている。社長を務める水道メーター会社が関わった談合問題、取材対象でもある政治家たちとの近い距離、度重なるセクハラ疑惑など不信感の蓄積があったのだ。
同時に、視聴率を稼ぐタレントであること、局の上層部と関係が深いことなどから、毅然たる判断を保留し続けたTBSに対しても視聴者は冷ややかな目を向けた。前述のヤラセ問題や横領事件などと併せて、「所詮テレビはこんなもの」と思わせてしまったことは、身から出た錆とはいえ残念でならない。
最後に特定秘密保護法である。正面切ってこの悪法に反対したテレビ局があっただろうか。いや、百歩譲って、この悪法の問題点をどこまで本気で伝えただろうか。報道機関として自身も多くの制約を受けることよりも、政権や監督官庁の顔色を気にして鳴りを潜めていたとしか言いようがない。こうした態度もまたテレビへの不信感を助長させるものだ。
「あまちゃん」と「半沢直樹」で、一時的とはいえ輝きを見せたテレビ。来年の盛り上がりが、ソチオリンピックとワールドカップ・ブラジル大会だけでないことを祈りたい。
(2013.12.24掲載)
・・・・今年も、この日刊ゲンダイの連載をご愛読いただき、ありがとうございました。
年明け、2014年の「TV見るべきものは!!」は、1月第2週からスタート。
来年も、どうぞよろしく、お願いいたします!