ホストクラブの総本山「歌舞伎町」の謎と実像
石井光太
『夢幻の街 歌舞伎町ホストクラブの50年』
角川書店 1760円
今年、新型コロナウイルスの影響で最も圧迫された業界、それがホストクラブではないか。かつてバラエティ番組に人気ホストが登場するなど、一過性ながら「ホストブーム」があった。久しぶりに注目された今回は完全に「悪の巣窟」扱いだ。
新宿歌舞伎町はホストクラブの総本山だが、これまでも様々な危機があった。バブル崩壊、石原都政時代の浄化作戦、リーマンショック、そして東日本大震災などだ。しかし、それでも現在まで歌舞伎町のホストクラブは生き抜いてきた。半世紀におよぶ歴史を掘り起こしながら、その謎と実像に迫るのが本書だ。
1973年、愛田武が開いた「愛本店」。それを中心に店が増えたことで歌舞伎町の一角がホスト街となった。どんなジャンルでも、革命家のような人物の出現で状況が一変することがある。愛田はそんな男だ。20代で会社を興すが、失敗して多額の借金を背負う。選んだ道がホストだった。得意の話術で頭角を現して独立。画期的な「最低保証制度」でホストが安心して働ける環境を整えた。90年代には歌舞伎町のホスト業界に王者として君臨することになる。
やがて、この愛田を源流とするカリスマホストと彼らの店が続々と登場して覇を競う。それは戦国時代か三国志の世界のようだ。展開されるのは役職制度の導入や広告戦略、ホストに対する社会人教育だったりする。生き残っていく店を眺めると、オーナーの人間性と店としての個性が鍵だと分かる。まるで企業経営のビジネス本を読むようだ。
一方、客の側も風俗嬢や「援助交際」の少女、さらに昼間の仕事をする女性たちと多様化する。中には売掛の借金が原因で失踪する者もいた。著者はこうしたホストクラブの暗部として、暴力団との関係についても明らかにしていく。その上で、ホストクラブは今、「新しい時代に向かいはじめている」と言うのだ。そこに待つのはどんな夢と現実なのか。
(週刊新潮 2020.11.19号)
夢幻の街 歌舞伎町ホストクラブの50年 (角川書店単行本) 石井 光太 KADOKAWA