<週刊テレビ評>
生身の人物像「恋する母たち」
大石静流、引きの強いセリフで
同時多発が多い「刑事ドラマ」や「医療ドラマ」に代わって、この秋は「恋愛ドラマ」が目立つ。TBS系「恋する母たち」(金曜午後10時)もその一本だ。
ヒロインは、同じ名門私立高校に息子を通わせる石渡杏(木村佳乃)、林優子(吉田羊)、蒲原まり(仲里依紗)の3人。この「母たち」が同時に恋に落ちた。
杏の相手は、自分の夫と駆け落ちした人妻の元夫で、週刊誌記者の斉木巧(小泉孝太郎)。優子は、同じ部署で働いていた年下の赤坂剛(磯村勇斗)。まりは3回の離婚経験をもつ人気落語家、今昔亭丸太郎(阿部サダヲ)である。
3人の女性と三つの家庭と3組の恋愛という、柔道の「合わせ技一本!」的な仕掛けが功を奏し、1本で3本分の恋愛ドラマを楽しめる。そんな「圧縮構造」によるテンポのよさを上回る特色が、脚本の大石静がちりばめた「引きの強いセリフ」だ。
例えば、3人が互いの身の上相談をする場面。杏は息子の研(藤原大祐)に認めてもらえなければ、斉木との関係を進められないと言う。すると優子は「人生は一度きりなんだから、諦めないほうがいいと思うな」と背中を押す。
まりは、どんなに反発しても息子は母親を嫌いにならないと主張。その理由は「息子にとって“最初の女”は母親なのよ」。
また、夫の愛人と直接対決したまり。慌てて家庭を大切にするそぶりを見せる夫にイライラして、丸太郎に訴えるとこう言われた。「夫婦は愛と憎しみ、両方があって一人前だよ」
さらに、夜のオフィスで仕事をしていた優子。赤坂がやってきて「結婚してほしい」と思いをぶつける。優子は赤坂と自分に対してこんな言葉でブレーキをかけた。
「私たちは今、性欲に支配されてるわ。性欲は、もって3年。その先、人生は50年も続くのよ。よく考えてみて」
このドラマの開始当初、設定や人物像がどこまで求心力を持つのか、気になった。回が進むにつれ、3人のヒロインが生身の人間として膨らみを帯び、目が離せなくなったのは、大石脚本の功績だ。
不幸と同様、幸せの形も人それぞれかもしれない。脚本家の向田邦子は「幸福」と題するドラマで、許されぬ恋をする女性にこんな告白をさせていた。
「惚(ほ)れてしまった男がいるけど、その人はもう、あたしのものじゃないのよ。ひとのもの。あきらめなきゃいけないの」。続けて「でも--駄目なの。いくら自分に言い聞かしても好きなものは好きなんだもの。あきらめきれないの」。
不倫恋愛というテーマは常に古くて新しい。
(毎日新聞「週刊テレビ評」2020.11.28)