BSデジタル放送開始20年
ライバルはネット配信
魅力あるコンテンツ課題
BSデジタル放送が1日、スタートから20年を迎えた。全国1波で同じ番組を見られるという地上波にない特色を持ち、地上デジタルテレビの普及とともに、この20年で視聴可能世帯も8割近くまで増えた。一方で、インターネットによる配信番組が増加し強力なライバルに。より高画質な「4K8K」時代の本格到来も見据えて、いっそう魅力あるコンテンツ作りが課題となっている。
潮目を変えた地上デジタルへの移行
NHKと民放のBS各局がBSデジタル放送を開始したのは平成12年12月。デジタル化は周波数の利用効率を高めて多チャンネル化や高画質化が可能で、当時、世界的潮流となっていた。だが、多額の費用もかかるため、民放のBS各局は向き合い方に温度差もあったようだ。
関係者によると、番組編成・制作に力を入れない“死んだふり作戦”で支出を抑える策に出ていた局も。一方で、BS朝日は「独自の大型ドキュメンタリーなど、地上波でできない番組作りに力を入れた」(有賀史英編成制作ビジネス部長)という。ところが「ご祝儀相場はスタートから半年で終わった」(同)。視聴者数があまりに少なかったのだ。
総務省によると、当時の受信機の普及台数(推計)は200万台未満。「地上波で育ったテレビマンにとって、視聴者がいないのは初めての経験。スポンサー獲得も難しく赤字が続いた」と有賀氏は振り返る。
潮目を変えたのは、23年の地上デジタル放送への移行だ。地デジテレビのほとんどはBSデジタルチューナーも内蔵していたため、5割に満たなかったBSデジタル視聴可能世帯が8割近くまで増加。移行前のテレビ買い替えで視聴者が増えたことで、19年度には民放BS全局が黒字となった。
ただ、地上波と同様にBSの広告収入もここ数年伸び悩んでいる。番組制作費は「デジタル放送開始時より現在の方が低くなっている部分もある」(BSフジの荒井昭博常務)といい、順風満帆とはいかない。
高齢層に人気 落ち着いた番組
BSテレ東の田村明彦社長は「高齢者向けの番組をやることで、安定してきた」と20年を振り返る。各局とも、スポーツの試合終了までの完全中継や、ゆったりした紀行番組など地上波でやらない番組作りにこだわった。この落ち着きが高齢層を中心に一定の支持を得て、中にはBSフジを出発点としたクイズ番組「クイズ!脳ベルSHOW」のように、地上波に乗り込んだ人気番組もある。
ただ、インターネットの発達は20年前の想定を超えているようだ。配信番組との差別化が難しくなっている。有賀氏は「ライバルは配信メディアだ」と断言。「BSの立ち位置を確立することは、開局以来ずっと引きずっている課題」と話す。ネットを巻き込むように、番組発のブームや、書籍化などの多メディア展開が見込めるコンテンツ作りを目標にしているという。
“異業種”の新規参入に熱視線
BS業界には活気ある動きもある。来年には吉本興業、ジャパネット、松竹と東急の合弁会社の3事業者がBS放送に参入。“異業種”からの参入に「新しい収益モデルを示せるか注目している」(既存BS局幹部)と業界も歓迎の姿勢だ。ジャパネットホールディングスの高田旭人社長は「ジャパネットは通信販売事業とともにスポーツ地域創生事業もやってきた。良いものを見つけ、磨き、伝える。この3ステップを大切にしていく」と語る。
また、WOWOWは来年3月から、より高画質な4K放送を開始するなど、本格的な「4K時代」も到来する。放送サービス高度化推進協会(A-PAB)によると、4K8K衛星放送の視聴可能機器台数は10月末現在で627万台。普及が進む中、4Kで見たい魅力的なコンテンツの創出も求められている。
遊び心ある番組を
元上智大教授でメディア文化評論家の碓井広義氏の話
「BSデジタルが歩んだ20年は、日本がネット社会となっていく20年と重なる。人がコンテンツ視聴に使える時間は有限で、ネットの配信動画が存在感を増す中でテレビの優先順位は下がっている。ただ、BSがなかったらテレビ文化はもっと貧しいものになっていた。コロナ禍でリモートを使った番組が生まれたように、ピンチはチャンス。BSの価値をとらえ直し、『地上波ではこんな番組は作れないだろう』という作り手の遊び心が感じられる番組を作ってほしい」
【道丸摩耶】
(産経新聞 2020.12.02)