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コロナ禍に揺れた2020年のドラマ界を振り返る

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「テレビ 見るべきものは!!」年末拡大版

コロナ禍に揺れた

2020年のドラマ界を振り返る

 

社会全体がそうであるように、今年のドラマ界もまた新型コロナウイルスの感染拡大を抜きに語ることはできない。厳しい状況の中でドラマ制作を続けた皆さんに敬意を表しながら、この一年を振り返ってみたい。

1月クールには上白石萌音主演「恋はつづくよどこまでも」(TBS系)があった。ヒロインの七瀬(上白石)は修学旅行で鹿児島から上京し、偶然出会った医師の天堂(佐藤健)に一目ぼれする。彼の近くに行こうと看護師を目指し、天堂と同じ病院で働き始めた。看護師として一人前になること、天堂に振り向いてもらうこと、そのためにはどんな努力も惜しまない。

やがて彼女の天性の明るさと笑顔は患者たちの支えとなっていく。七瀬はかたくなだった天堂の気持ちも動かすが、一番揺さぶられたのは見る側の感情だ。仕事も恋も初心者で、失敗しては落ち込み、泣いて、また顔を上げる。ひたすら一途でけなげなヒロインに多くの人が癒やされた。

■予想を超える戦争描写に驚かされた「エール」

4月、NHKの連続テレビ小説「エール」が始まった。このドラマ、全体としては誰もが楽しく見ることのできる良質な朝ドラになっていた。古関裕而がモデルの作曲家・古山裕一(窪田正孝)とオペラ歌手でもあった妻・音(二階堂ふみ)の「夫婦物語」であり、2人を軸とした昭和の「音楽物語」でもあるという複層構造が功を奏したのだ。

ただ、古関はかつて「軍歌の巨匠」でもあった。「勝ってくるぞと勇ましく」の歌い出しで知られる、「露営の歌」などその一例だ。レコード会社の専属作曲家としての「業務」だったことは事実だが、古関の中に葛藤はなかったのか。果たしてこの時代の古関を、いや古山裕一を描けるのか、注目していた。

結果的に、予想を超える戦争描写に驚かされた。慰問でビルマ(現在のミャンマー)に赴いた裕一は、前線に出ていき銃撃戦に巻き込まれる。次々と倒れていく日本兵。しかも、ようやく会えた恩師の藤堂(森山直太朗)が目の前で被弾し、亡くなってしまう。これまで何本もの朝ドラが戦争の時代を扱ってきた。だが、悲惨な戦闘シーンをここまで直接的に見せることはなかった。それだけでも「エール」は画期的な朝ドラだったのだ。

5月から6月にかけて、出演者がそれぞれ別の場所にいる状態で制作する、いわゆる「リモートドラマ」が何本も放送された。その中で、リモートドラマという枠を超えた秀作といえるのが「2020年 五月の恋」(WOWOW)だ。画面は完全な2分割で、別々の部屋に男女がいる。

会話だけのドラマを駆動させるのはセリフ以外にない。本来、不自由であるはずの「リモートな日常」をてこにして、人の気持ちの微妙なニュアンスまで描いていたのは、脚本の岡田恵和(朝ドラ「ひよっこ」など)の功績だ。

異色の刑事ドラマ「MIU404」(TBS系)が放送されたのは6月末から9月にかけて。扱われる事件はさまざまだが、このドラマのキモは、いわゆる謎解きやサスペンスだけではない。事件を通じて2人が遭遇する、一種の「社会病理」を描くことにあった。

たとえば、外国人留学生や研修生を安価な労働力として使い捨てにする、この国の闇に迫っていた。脚本・野木亜紀子、プロデューサー・新井順子、演出・塚原あゆ子という「アンナチュラル」の最強トリオによる、剛速の変化球である。

現実社会とリンクした痛快さこそ「半沢」大ヒットの要因

4月に始まるはずだった日曜劇場「半沢直樹」(TBS系)がようやくスタートしたのは7月だ。「お待たせ効果」も加わって、9月27日放送の最終回の世帯平均視聴率(関東地区、ビデオリサーチ調べ)は32・7%に達した。なぜ「半沢直樹」は社会現象ともいえる人気を得たのか。

第一に主人公の半沢を演じた堺雅人はもちろん、歌舞伎界や演劇界からの強力な援軍を含む俳優たちの熱演がある。次に福沢克雄ディレクターをはじめとする演出陣の力業も見事だった。しかし見る側を最も引きつけたのは、後半の「帝国航空」をめぐる大物政治家との暗闘ではなかったか。

半沢たちが作成した帝国航空の再建案をつぶし、航空会社と銀行の支配をもくろんだのは与党の箕部幹事長(柄本明)である。ドラマというフィクションの中とはいえ、政権を担う党の幹事長が、ゲームにおける最終的な悪玉「ラスボス」のごとく描かれた点に注目だ。

新型コロナウイルスの影響で明らかに社会が変わってきた。「1億総マスク化」に象徴される閉塞感も続いている。また多数派の意見は一種の「空気」となり、「みんなと同じ」を強要する「同調圧力」を生んでいる。コロナをめぐる「自粛警察」などはその典型だ。

しかし半沢は最後まで自分が信じる理念のもとに行動した。相手が権力者でもひるまない半沢に、留飲を下げた人は多いのではないか。現実社会とリンクした痛快さこそ、見る側がこのドラマに求めたものだったのだ。

来年、ドラマはどうなっていくのか。「リアル」を優先して登場人物全員がマスクを着用した作品が並ぶのか。そういうものを視聴者が見たいと思うのかも含め、制作側は頭が痛いだろう。だが、それ以上に考えなくてはならないのは、現在の社会状況の中でドラマを作ることの意味かもしれない。

(日刊ゲンダイ 2020.12.23)

 


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