<週刊テレビ評>
「俺の家の話」
介護に笑い、クドカンの剛腕
たくさんのドラマの中から「これを見よう」と決める時、その選択基準は何なのか。告知情報などで知った概要。刑事ものとか医療ものとかのジャンル。好きな俳優や人気女優が出ている。さらに脚本家で選ぶという人も少なくないだろう。中でも宮藤官九郎の名前は吸引力が強い。見たことのないもの、トンデモナイものを見せてくれそうな期待感があるからだ。
長瀬智也主演のTBS系「俺の家の話」(金曜午後10時)は、そんな期待を超えたドラマだ。キーワードは「介護」「プロレス」「能」。普通は想像もつかない。しかし、宮藤の手にかかると、この三つが融合した前代未聞の「ホームドラマ」になってしまうのだ。
舞台は能の宗家。当主の観山寿三郎(西田敏行)は二十七世観山流宗家で人間国宝だ。とはいえ2年前に脳梗塞(こうそく)で倒れ、下半身のまひが消えていない。長男の寿一(長瀬)は家を出てプロレスラーをしていたが、突然、寿三郎が危篤状態に陥ってしまう。驚いた寿一は急きょプロレスから引退し、父の跡を継ごうと決意する。
物語を際立たせているのは、有能な介護ヘルパーの志田さくら(戸田恵梨香)の存在だ。寿三郎は彼女にほれ込み、婚約者扱い。財産を全て渡すと記した遺言状を何通も書く。すでに始まっている認知症の影響らしい。
一方、寿一の弟で弁護士の踊介(永山絢斗)が調べたところ、これまでにさくらは亡くなった被介護者から遺産を受け取っていた。狙いは観山家の財産なのか。性悪な「後妻業の女」なのか。彼女は介護を行っただけだと言うが、まだ多くの謎に包まれている。
引退し、さくらと共に父の面倒をみている寿一だが、時には目を離すこともある。寿三郎にトラブルが発生するのはそんな時だ。「最近は調子がよかったから、まさか」と言い訳する寿一をさくらがしかった。「介護にまさかはないんです! 常に細心の注意で臨んでも、予期せぬ事が起こるんです。介護をナメないでください!」
この作品はホームドラマであると同時に秀逸な「介護ドラマ」でもある。誰かを介護したり、誰かに介護されたりすることが当たり前の社会にいながら、つい目を背けているのが介護問題だ。宮藤は見る側を笑わせながら、「要介護」や「要支援」の規定から、シルバーカー(高齢者用手押し車)利用者の心理まで、ごく普通の事として介護の話題を物語化していく。
父の世話と能の稽古(けいこ)に加え、家の台所事情から覆面レスラー「スーパー世阿弥マシン」としてリングに戻った寿一。「強い体幹を持つ男」を演じる長瀬が頼もしい。
(毎日新聞夕刊 2021.02.13)