作り手たちが証言する、
大河が「作品」だった頃
春日太一『大河ドラマの黄金時代』
NHK出版新書 1110円
春日太一『大河ドラマの黄金時代』は、過去の作品が「どのように作られたか」を検証した一冊だ。対象は1963年の第1作「花の生涯」から91年の「太平記」まで。当時のプロデューサーとディレクターの「証言」だけで構成されているのが最大の特色だ。
最初のプロデューサー・合川明は、芸能局長から「スターを連れてこい!」と厳命を受ける。しかし映画俳優は会社との専属契約に縛られ、テレビ自体が格下と見られた時代だ。合川も松竹のスター・佐田啓二を担ぎ出すのに苦労する。
その後、長谷川一夫主演の「赤穂浪士」、新人だった緒形拳を起用した「太閤記」とヒットが続き、第7作の「天と地と」では演出家3人の分担制が導入された。その一人、清水満は「紙芝居的な面白さを狙おう」としたことを明かす。
また前代未聞の事態となったのが74年の「勝海舟」である。主演の渡哲也が病気で交代し、脚本の倉本聰が途中降板したのだ。本書ではディレクターの伊豫田静弘が、無理なスタッフ編成など核心部分を率直に語っていて驚かされる。
読後、印象に残るのは作り手たち個人の熱い思いであり、真っ直ぐな創作欲だ。そこには「マーケティング」など存在しない。変ってくるのは、大河ドラマが「作品」から「商品」へと移行する90年代だ。著者が執筆範囲を「黄金時代」と呼ぶ理由もそこにある。
(週刊新潮 2021.04.01号)