松たか子「大豆田とわ子と三人の元夫」は
続きが見たくなる大人のドラマだ
今期、最も“クセになる”ドラマである。「大豆田とわ子と三人の元夫」(関西テレビ制作、フジテレビ系)のことだ。
大きな物語が展開されるわけではない。大豆田という珍しい名字を持つ、とわ子(松たか子)。彼女の元夫で、平凡な名字の田中(松田龍平)、佐藤(角田晃広)、中村(岡田将生)。この4人の「日常」と「微妙な関係」が淡々と描かれていく。
ただし、ぼんやりと見ているわけにはいかない。なぜなら、一つのセリフも聞き漏らすことができないからだ。というか、これほど「セリフ命」なドラマも珍しい。
たとえば、皮肉ばかり口にする中村に対して、佐藤が言う。「人から嫌われることが怖くなくなったら、怖い人になりますよ」。
また、とわ子が親友の綿来かごめ(市川実日子、好演)に、元夫との関係が「面倒くさい」と愚痴る。すると、かごめがこう答えた。「面倒くさいって気持ちは好きと嫌いの間にあって、どっちかっていうと好きに近い」と。ドラマ全体が、まるでアフォリズム(警句)を集めた一冊の本みたいだ。
脚本は坂元裕二。2017年の「カルテット」(TBS系)同様、舞台劇のような言葉の応酬はスリリングで、行間を読む面白さがある。
そして、セリフが持つニュアンスを絶妙な間と表情で伝える俳優陣も見事。万人ウケはしなくても、続きが見たくなる大人のドラマだ。
(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.05.12)