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毎日新聞で、「明日ママ」放送継続をめぐってコメント

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日テレ「明日ママ」放送継続
子供の尊厳と表現の自由の間で
児童養護施設を舞台にした日本テレビの連続ドラマ「明日、ママがいない」の内容や表現をめぐる一連の騒動は、日テレが関係団体に謝罪し、細心の注意を払って放送を継続することで、一応の決着を見た。フィクションであるドラマの表現の自由と、子供の尊厳をどのように考えたらいいのか。3人の識者とともに考えた。
【有田浩子、青島顕、土屋渓】

「一定の改善が図られると受け止めた。放送を見守りたい」。厚生労働省で5日、記者会見した全国児童養護施設協議会の藤野興一会長は、日本テレビの佐野譲顕(よしあき)・制作局長から前日(4日)に、A4判で2枚の謝罪文書を受け取ったことを明かし、「誤解を与えないよう、細部に注意を払う」とした回答に一定の評価をした。

協議会などは、主人公のあだ名や、子供をペット扱いしたり、罵倒したりする表現に改善を求めていた。児童養護施設からはドラマを見た子供が自傷行為に及んだという報告も上がっており、日テレは「そのような事実が存在するのであれば、結果を重く受け止め、子供たちにおわびする」とした。

回答の中で、日テレは子供たちが前向きに愛情をつかむテーマ設定について、「協議会の活動と方向性は異ならない」と説明した。しかし、藤野会長はなお「社会的養護(社会全体で子供を育む理念)への理解が不足している」と指摘。同席した全国里親会の星野崇会長も「子供は傷ついた。里親は必死に育てている。私たちの努力に水をかけるのはやめてほしい」と、不満をあらわにした。

親が育てられない子供を預かる「赤ちゃんポスト」を全国で唯一設置する慈恵病院(熊本市)は、あだ名の「ポスト」を問題視したが、この日放送中止の要請を撤回したことを明らかにした。記者会見した蓮田健・産婦人科部長は「3話までに(表現は)だんだん柔らかくなっている」とストーリーの進展を肯定的に受け止めた。ただ、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会への申し立ては取り下げない方針。蓮田部長は「弱者を描くドラマにどういった配慮が必要か。裁判で争うのではなく、メディア全体に(表現の配慮を)お願いするしかない」。

       ◇

問題の発端は初回放送日翌日の1月16日、慈恵病院が記者会見し、放送中止を求めたことだった。同21日には協議会と里親会が記者会見し、内容の改善を求めた。日テレ側は当初、「子供たちの視点から『愛情とは何か』を描いた」と、ドラマの趣旨を説明したコメントを発表したが、団体が求めていた謝罪や放送中止には応じず「最後まで見てもらえばわかってもらえる」としていた。

変化が表れたのは同27日の大久保好男社長の会見だった。スポンサーのCM放送自粛は予想外だったとみられ、大久保社長は「『配慮が足りないのではないか』との抗議は重く受け止めている」と述べた。日テレ側はその後、病院や協議会、里親会を個別に訪ね、話し合いを重ねてきた。

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◇ドラマのあらすじ

ドラマは「コガモの家」が舞台。人気子役の芦田愛菜(あしだまな)さんが、「赤ちゃんポスト」に預けた母を憎むがゆえに「ポスト」と名乗っているという設定。第1話は、施設長(三上博史さん)が、子供たちに「お前たちはペットショップの犬と同じだ」と言い放ち、可愛げを身につけるよう命令したり、水の入ったバケツを持たせたりするなど暴力的なシーンが目立った。第2話以降、あだ名についての変更はなかったが、学校生活や里子を希望する夫婦らの元で過ごす「お試し」の様子を通じ、「愛を求めたくましく生きる子供たちを描く」(日テレ)。毎週水曜午後10時放送。全9話。「聖者の行進」「高校教師」などの脚本で知られる野島伸司さんが監修。


<識者の話>

◇一部分で断罪、作者に酷
  上智大教授(メディア論)・碓井広義さん

第1話の放送が終わるとすぐに「内容がけしからん」と抗議が入り、中止が取りざたされた。これで、もし本当に取りやめになったら大きな前例になり問題だ、というのが当初の実感だった。小説やドラマでは極端な表現で普遍を描くこともある。登場人物がみんないい人では、表現の幅を狭めてしまう。一部分を見て作品を断罪されると、作り手はつらい。「全体を見て評価して」と思うだろう。

ドラマを監修したのは野島伸司さん。第1話を見た印象は明らかに「野島節」。きわどい設定、きつい言葉遣い。子供に手を上げる場面もあった。親に捨てられ入った施設も安住の地ではない。「家なき子」「高校教師」などもそうだが、登場人物に圧をかける(過酷な状況に追い込む)のが野島さんの得意パターン。視聴者の心を揺さぶり騒がれても「最終的にはいいお話でした」で決着させる。この手法がちょっと古い。

親が子をあやめる事件や虐待が多発し、視聴者の目は厳しい。現実をどう取り込むか、思慮が足りなかったのではないか。今はツイッターなどで「嫌なものは嫌」と誰しも声を上げられる。そこに乗っかる人もいて雪だるま式に広がる。

4話では子供たちの気持ちの通い合いや、施設長の心根がはっきり見えた。当初から制作側が意図した展開だと思う。今後「ポスト」という呼び名を減らすなど細かい配慮が表れるだろうが、構成は変わらないはず。真価は最終回までのトータルで問われるべきだ。


◇当事者納得の結末、望む
  コラムニスト・ペリー荻野さん

ドラマ自体はアニメの「ちびまる子ちゃん」みたい。金持ちの家の子の誕生日に招かれ、目がハートになるなど、デフォルメされた描かれ方になっている。

内容をすべて知る作り手側は「これで大丈夫」と思い、当初は見てもらえばわかるの一点張りだったが、「ポスト」など言葉のインパクトが先行し、考えていた以上に、視聴者や関係者との間に「ずれ」が生じてしまった。

日テレは2005年、天海祐希さん主演のドラマ「女王の教室」でも物議をかもしたことがある。天海さん演じる女性教師が、生徒たちに過酷な試練や言行を浴びせ続ける内容だった。このときは力業で押し切った。今回もその手法だったのかもしれない。

しかし、女王の教室は架空の設定とのみこめたし、ドラマの完成度は高かったが、今回は「ポスト」「里親」などの言葉は現実とリンクし、100%フィクションのドラマとして見るのは難しい。そうであれば慎重な配慮が必要だった。
騒動が起きた当初は、放送を中止にして、有料チャンネルでの放映や映画化するなど、仕切り直しをしてもいいのではないか、と考えていた。

だが、日テレが関係者とコミュニケーションをとったうえで、放送の継続を決めたのであれば、傷ついた当事者に納得のいく結末を見せてほしい。そして、願わくは今回の騒動を記憶し、もう一度ドラマの表現を考えるきっかけにしてほしい、と思っている。


◇「最後まで見て」傲慢だ
  立教大教授(メディア法)・服部孝章さん

「赤ちゃんポスト」から取った子供の呼び名、施設長役の「ペットショップの犬と同じだ」といったせりふは、児童養護施設で暮らす子供への差別感や偏見を助長する。全国児童養護施設協議会の調査でも事例が寄せられた。日本テレビは4日に謝罪したが、自傷行為などの事例の確認をしていないのか、文書には「事実が存在するのであれば」と前置きがあった。「表現の自由」が尊重されなければならないのは当然だが、それ以前の問題だろう。

誰でもアクセスできる地上波番組で、子供たちに与える影響も大きい。大人が対象の午後10時からの放送ではあるが、録画で見る人も多い。第1回放送前には、昼間の時間帯に番組予告を繰り返していた。

1回完結のドラマではない。日本テレビは「最後まで見てもらえれば分かってもらえる」と説明したが、傲慢な態度だと思う。確かに最後には施設の子への応援歌になっているのかもしれないが、その間、あだ名やせりふが何度も流され、当事者が「被害を受けた」という思いが堆積(たいせき)していく。

放送を中止すべきだとは思わないが、たとえば「差別を肯定する意図は全くありません。可能でしたら、最終回まで見ていただけたなら、私どもの意図をご理解いただけると思います。低年齢層の子供には年長者とともに視聴し、偏見を生まないよう助言なさっていただきたい」といったおことわりのテロップを入れるなどの配慮が必要だろう。

(毎日新聞 2014年02月10日)



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