日刊ゲンダイに連載している「TV見るべきものは!!」。
今週は、山田太一ドラマスペシャル「時は立ちどまらない」について書きました。
山田太一ドラマスペシャル
「時は立ちどまらない」(テレビ朝日)
これからが本当の意味での絆が問われる正念場
22日に放送された山田太一ドラマスペシャル「時は立ちどまらない」(テレビ朝日)。あの山田太一が書く震災ドラマだ。それだけで見る価値はある。
ただし山田ドラマだからこそ、薄っぺらな「絆」や「つながり」、安易な「涙」に満ちた「いい話」は願い下げだった。
監督は元TBSの堀川とんこう。37年前、多摩川の氾濫に遭遇した一家を描いた山田脚本「岸辺のアルバム」の演出・プロデューサーだ。2人の大ベテランは今回もまた本音の言葉が飛び交う挑戦的な1本を生んでいた。
妻と嫁と結婚を控えた孫を失った老人(橋爪功)が言う。援助される自分は「ありがとうと言うしかない」。だがそんな立場は「俺のせいか?」とも思う。「他人の世話になるのが嫌なんだ」という告白も飛び出す。そこにあるのは支援される側の心の負担の問題だ。
また被災地に暮しながら家も家族も無事だった男(中井貴一)は、何も失っていないことに罪悪感を抱いている。不公平だとさえ言い、「自分の無事が後ろめたいんです」と悩んでいる。
だが一方で、支援する側として「そうそう他人の身になれるか」という反発心も押さえきれない。ドラマは相反する思いが同居する当事者の心情を、巧みなストーリーとセリフで表現していく。
震災から3年。これからが本当の意味での「絆」が問われる正念場なのだ。
(日刊ゲンダイ 2014.02.25)