北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今週贈賞式が行われた「ギャラクシー賞」をめぐって書きました。
ギャラクシー賞が映す放送の「現在」
ギャラクシー賞は放送における大きな賞のひとつだ。放送評論家や研究者などで構成される放送批評懇談会が主催しており、今年で50年の歴史をもつ。3日に贈賞式が行われ、入賞作品の中から選ばれた大賞や優秀賞が発表された。今年の受賞作が映し出す放送の「現在」を確かめてみたい。
テレビ部門の優秀賞には、琉球朝日放送の報道特別番組「標的の村〜国に訴えられた東村・高江の住民たち」が選ばれた。米軍機「オスプレイ」の着陸帯が自宅近くに建設されることになり、それに抗議した住民が国から訴えられた。国策に反対する市民を国が訴えるという前代未聞の裁判だ。全国メディアがほとんど触れなかった出来事を、地域メディアならではの粘り強さで取材している。
同じく優秀賞の特集ドラマ「ラジオ」(NHK・テレビマンユニオン・NHKエンタープライズ)は、東日本大震災の被災地・宮城県女川町に実在する「女川さいがいFM」から生まれたドラマだ。被災地に生きる女子高生と彼女を見守る大人たちが織りなす物語は、ネットをはじめとするメディアのあり方にも一石を投じていた。
そして大賞は、NHKスペシャルのシリーズ東日本大震災「追跡 復興予算19兆円」である。増税と引き換えでも確保すべきとされた復興予算が、沖縄の道路工事や岐阜の工場増設など、「復興」とは結びつかない案件に流れる実態を明らかにした調査報道だ。原発事故報道などで損なわれた、テレビに対する信頼を取り戻す1本と言えるだろう。
ラジオ部門ではオーディオドラマの健闘が目立つ。NHK「橋爪功ひとり芝居 おとこのはなし」と並んで優秀賞を受けたのは、琉球放送「40才のタンカーユーエー」だ。タイトルは赤ちゃんのお祝い行事であり、本土復帰から40年を経た沖縄を舞台に、同じ年齢となった喫茶店主の日常を描いている。人生の軌跡と故郷の歩みをリンクさせた意欲作だ。
大賞は中国放送の「日々感謝。ヒビカン」。平日の昼12時から15時まで、身近な話題を伝える帯番組だ。「原爆の日」にアメリカの詩人アーサー・ビナードさんをゲストに招き、石碑の像に刻まれた相対性理論の方程式を入り口にして、核の本質を伝えようとした。日常的な番組の中で、いかに重いテーマを扱うか。そこに新たな挑戦があった。
また、惜しくも大賞や優秀賞は逃したものの、北海道放送「凍えた部屋〜姉妹の“孤立死”が問うもの〜」も評価が高かったことを記しておきたい。
(北海道新聞 2013年06月04日)