発売中の放送専門誌「GALAC(ぎゃらく)」4月号に、『こうしてテレビは始まった』の書評を寄稿しました。
『こうしてテレビは始まった―占領・冷戦・再軍備のはざまで―』
有馬哲夫:著 (ミネルヴァ書房)
この本が出版されたのは作年末。テレビ放送開始60周年を締めくくるにふさわしい一冊だった。なぜなら、過去に記された放送史・テレビ史研究に対する、明確な異議と憤りが込められていたからだ。
このジャンルの著作におけるテレビの導入部分のほとんどは、「当事者の自己正当化に満ちた回顧録」と「いちおう取材はするがあとは好き勝手に書くドキュメンタリー作家の『作品』」が出典となっており、それは「歴史ではなく、神話の世界」だと著者はいう。実に手厳しい。
本書最大の特徴は、テレビ草創期に活動した当事者・関係者への直接インタビューと、アメリカ公文書館をはじめ多くの図書館から収集した第一次資料に基づいて書かれていることだ。日本へのテレビ導入がアメリカの外交・情報政策の一環だったことを実証的に示すなかで、いくつもの新事実を明らかにしている。
GHQは、当時左翼的と見られていた日本放送協会によるラジオの独占を破るための、つまり「反共産主義のメディア」としてテレビを位置付けていた。
また、これまでの放送史では、「テレビの父」と呼ばれる発明家のドウフォレストたちが、放送局を計画していたために正力松太郎と関わったとされていた。しかし、実際はテレビ受像機の製造・販売事業こそが狙いだったのだ。
さらにテレビの方式に関しても、高柳健次郎と八木秀治の間で行われた「メガ論争」なるものが、実は方式の決定とは無関係だったこと。正力のテレビ放送網は、そのままアメリカ軍の軍事通信網のバックアップとなるものだったことなどが、豊富な資料を背景に検証されていく。
歴史的事実の細部を見逃さない目と、全体を俯瞰で捉える目を兼ね備えた本書は、著者の20年に及ぶ研究の集大成である。
(GALAC 2014年4月号)