北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、「集団的自衛権行使の閣議決定」が行われた日のテレビ報道を検証しました。
「集団的自衛権行使の閣議決定」
テレビ報道を検証
見識と力量 脆弱さ露わ
安倍政権が集団的自衛権の行使を認める閣議決定を行った7月1日。テレビは何を、どう伝えたのか。民放とNHK、各局を代表する夜の報道番組を検証した。
ニュースを伝える側のスタンスは順番・長さ・論調に現れる。
この日ほとんどの局がトップに置いていたが、最長はテレビ朝日「報道ステーション」の38分だ。「政府の判断次第でどこでも攻撃できる」と危うさを指摘。恵村順一郎・朝日新聞論説委員の「一内閣が憲法の基本原理である平和主義をねじ曲げ、数の論理で押し通し、国民に説明もしない」という解説も明快だった。
次が23分のTBS「NEWS23」だ。アンカーの岸井成格は「戦後日本の大転換点。子や孫の世代までが極めて重い荷を持つ」と語り、政府の言う「歯止め」についても、「閣議決定の文章に歯止めはない」と反論。「超えてはならない一線を超えた」と視聴者の危機意識を喚起した。
日本テレビ「NEWS ZERO」は15分。その中心は村尾信尚キャスターによる安倍首相へのインタビューだった。しかし終始首相の勢いに押されて斬り込めない。結局は政府見解のPRになっていた。
またテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」は、首相の会見、野党の意見、海外の反応などを並べ、ビジネスへの影響から「近隣諸国へのフォローが必要」と8分で締めくくった。
驚いたのはフジテレビ「LIVE2014 ニュースJAPAN&すぽると!」だ。何とトップニュースが「富士山の山開き」だった。集団的自衛権については、これを行使することで「どのような行動が可能になるか」を説明。
同盟国に向けたミサイルの迎撃や機雷除去などに“いいことずくめ”の印象を与えていた。しかも時間はわずか6分である。ジャーナリズムの役割を果たしていない。
最後のNHK「ニュースウオッチ9」は23分を費やした。目玉は大越健介キャスターが解説する自衛隊派遣の歴史だったが、「集団的自衛権というカードを持つことで、協力だけではなく日本への脅威を抑止するという性格が強まります」と結論づけた。
これではまるで政府広報ではないか。今年1月の就任以来、問題発言を繰り返してきた籾井勝人会長の「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」を体現したような報道だ。
政府が日本を「戦争ができる国」にしたこの日。報道機関としてのテレビの見識と力量が問われ、その脆弱さが露わになった。
(北海道新聞 2014.07.07)