北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、8月に放送された“戦争特番”について書きました。
現実的な危機感とともに
今年の戦争特番が描いた戦場と銃後
今年ほど「戦争」の影を感じさせた8月はなかった。「集団的自衛権は行使しない」という歴代内閣の方針を安倍政権が閣議決定で覆し、海外派兵への道を開いたのが7月だったからだ。8月の戦争特番も現実的な危機感と共に見ることとなった。
民放では2本のスペシャルドラマが放送された。1本目は15日の「命ある限り戦え、そして生き抜くんだ」(フジテレビ)。主人公はパラオ・ペリリュー島の戦いで部下の玉砕を戒めたという連隊長(上川隆也)だ。
しかし、どこか奇麗事に見えたのは脚本の弱さのためだろう。加えて13日には、同じ戦闘を題材にしたドキュメンタリー「狂気の戦場ペリリュー〜"忘れられた島"の記録〜」がNHKスペシャルで流されていたのだ。こちらはアメリカ軍が撮影していた記録フィルムと証言によって、戦争を終わらせることがいかに困難かを浮き彫りにしていた。
もう1本は25日の「遠い約束〜星になったこどもたち〜」(TBS)である。敗戦後の満州(現中国東北地方)で孤児となった子供たちと、彼らを守ろうとした元軍人(松山ケンイチ)の物語だ。力作かもしれないが、登場人物たちの心情がパターン化していたのが残念。また実際の満州を体験した人は、「悲惨さはこんなものじゃなかった」と言うのではないか。
一方、ドキュメンタリーでは14日のNHKスペシャル「少女たちの戦争〜197枚の学級絵日誌〜」が深い印象を残した。滋賀県大津市に、昭和19年から翌年にかけて小学5年生の少女たちが書いた絵日誌が残っていた。そこには地方の町の戦時下の日常が記録されている。はじめは学校の畑で野菜や花を育て、神社の祭りを楽しむ、一見のどかな生活だ。
しかし戦争の影は徐々に少女たちを覆っていく。身近な人の出征。援農の田植え。空襲警報が鳴り響くようになると絵日誌にも過激な言葉が増えていく。最後は「にくらしきB29。今に見ていろ、この戦(いくさ)」の文字と共に、真っ黒に塗りつぶされたB29が描かれる。
当時、少女たちは何を見つめ、何を思っていたのか。現在80歳を超える彼女たちの記憶がよみがえっていく。番組全体は静かで淡々としており、ひたすら絵日誌と少女たちが語る言葉に集中していた。そのおかげで、子供たちの心をも侵食していく戦争の怖さや残酷さを見る側が実感できたのだ。
この10年、Nスペの戦争特番は指導者の実態や兵士の証言などが中心だった。今回、銃後の子供たちの日常に目を向けたことで画期的な1本が生まれた。
(北海道新聞 2014.09.01)