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地域と併走するローカル局の挑戦 

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ビジネスジャーナルに連載しているメディア時評、碓井広義「ひとことでは言えない」。

http://biz-journal.jp/series/cat271/

今回は、民放連賞「放送と公共性」について書きました。


ローカル局が熱い?活発化するテレビの挑戦 
視聴率競争とは一線
地域と併走する意欲的試み
●日本民間放送連盟賞 特別表彰部門「放送と公共性」とは

放送界には、放送批評懇談会が選ぶ「ギャラクシー賞」、全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)が選ぶ「ATP賞」など、いくつかの大きな賞がある。「日本民間放送連盟賞」もその一つで、全国の民放各局で構成される日本民間放送連盟(民放連)が主催しているものだ。

番組部門、CM部門、技術部門などに分かれており、今年筆者は特別表彰部門「放送と公共性」の審査員長を務めさせていただいた。一緒に審査に当たったのは石澤靖治(学習院女子大学長)、入江たのし(メディアプロデューサー)、木原くみこ(三角山放送局会長)、村上雅通(長崎県立大学教授)の各氏だ。

この部門の特色は、応募事績の幅広さと奥行きにある。「番組」という枠にとどまらない複合的な取り組み、新たな視聴者・聴取者サービスへの挑戦、さらに「放送のあり方」そのものを探る試みなどを含んでいるからだ。

各地のローカル局が、民放らしい日常的な視聴率競争とは一線を画しながら取り組んでいる果敢な「放送活動」。今年の全入賞作(最優秀賞1本、優秀賞4本)を通して、放送の現在を見てみたい。


<最優秀賞>

●ドキュメンタリー映画とテレビの未来(東海テレビ)

戸塚ヨットスクールの現在を追った『平成ジレンマ』(2011年)に始まり、最新作『神宮希林 わたしの神様』(14年)まで、東海テレビが製作したドキュメンタリー映画は計7本に上る。死刑事件の弁護を請け負う弁護士をテーマにした『死刑弁護人』や『約束 名張毒ぶどう事件 死刑囚の生涯』など話題作も多い。

注目すべきは、この取り組み自体が現在のテレビに対する鋭い問いかけになっていることだ。NHK以外では、たくさんの人の目に触れる時間帯で放送されないドキュメンタリー。テレビにおけるこのジャンルの位置。賛否両論があるテーマの扱いが制限される最近の傾向。ローカル局からの発信が全国に届かない現状。それらが閉塞感を生み出し、作り手の意欲を削いでいるのではないか。

東海テレビはそこに風穴を開けた。テレビであることの制約を超えた内容を盛り込み、全国の劇場や自主上映の会場で直接、視聴者(市民)に見てもらう。また、その反応を確かめるだけでなく、時にはつくる側と見る側との交流や議論も行う。

さらにデジタル時代に逆行するかのようなアナログ的コミュニケーションから得たものを、今度はテレビにフィードバックさせていく。このテレビと映画の間を往還する取り組みの継続は、映像表現の場としてのテレビを捉え直し、再発見することにつながるはずだ。


<優秀賞>

●HTB詐欺撲滅キャンペーン「今そこにある詐欺」(北海道テレビ)

視聴者に役立つ情報を提供することは、放送の大事な役割の一つである。年々増加する振り込め詐欺は高齢者が被害者となるケースも多い。北海道テレビは夕方の情報ワイド番組『イチオシ!』にコーナーを設け、1年以上も警鐘を鳴らし続けてきた。

特筆したいのは、このキャンペーンを毎日放送してきたことだ。もちろん現在も、記者たちは日常活動と併行して素材を探し、1日も欠けることなく詐欺に関する情報を流している。表面に出ることを嫌いがちな被害者の証言を伝え、再現も含めて新たな手口を具体的に紹介する。「自分だけは大丈夫」と思っている人ほど危ないのが振り込め詐欺だ。

たとえ時間・人数・予算が限られていようと、「今伝えるべきこと」を発信し続ける地域メディア。これは今後のローカル局のあり方に大きな影響を与える取り組みでもある。

●「未来へ伝える~私の3.11」手記募集(IBC岩手放送)

時間の経過と共に、被災者の様子や復興の進捗状況が中央のメディアで報じられる機会は明らかに減少している。しかし、地元の放送局は住民との併走をずっと続けてきた。

岩手放送が行っているのは、「あの日」の記憶を共有し、次の世代にも伝えていこうとする取り組みだ。ラジオを通じて手記を募集し、放送で読み上げ、CD付きの書籍として出版した。そこには被災者の“本音”と“事実”が記録されている。また環境と心の変化も見て取れる。

それを可能にしているのは、マスメディアでありながら同時にパーソナルなメディアでもある、ラジオ独特の力だ。朗読を担当している大塚富夫アナウンサーの人柄とも相まって、ヒューマンな温もりのあるキャンペーンとなっている。

●ヒューマニズムに訴え続けた20年~日中韓共同制作による相互理解~(福井テレビ)

ローカル局と海外の放送局との共同制作は決して珍しくない。だが、それを20年間続けているケースは稀有であり、おそらく大変な努力が必要だったはずだ。しかも、近年、国と国の間に様々な課題が発生している中国と韓国がパートナーである。

政治や外交の問題に踏み込めば困難だった共同制作を、相互理解を目標に、ヒューマンと文化に徹することで実現してきた。そこから、いわば潤滑油のような効果が生まれ、地域ならではの国際交流にまで発展している。
ビジネスという側面だけでは測れない意義や価値を大切にし、この取り組みを継続しようとする姿勢を評価したい。

●報道キャンペーン「暮らしの防災」と、防災・減災を伝える放送外活動(名古屋テレビ)

東日本大震災以来、全国の放送局が、地域の「防災・減災」に関する活動を一層強化している。その中で名古屋テレビの事績が突出しているのはなぜか。端的に言えば、「南海トラフ地震は起きる」という覚悟であり、ハラのくくり方である。

「来るかもしれない」ではなく、「かならず来る」を前提とした取り組みは、極めて具体的かつ生活密着型だ。しかも、防災・減災を暮らしに取り込む「平時の備え」の大切さを、放送だけではない多様な手法で繰り返し伝えている。地域の放送局として、真剣に地域住民の命と財産を守ろうとする決意がそこにある。

(ビジネスジャーナル 2014.10.15)


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