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【気まぐれ写真館】 横浜みなとみらい


南海電鉄「不適切アナウンス」騒動をめぐって・・・

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フジテレビのネット放送局「ホウドウキョク」に、電話で生出演。

「あしたのコンパス」で、南海電鉄「不適切アナウンス」騒動について解説しました。













大島由香里アナウンサーと古市憲寿さん


*今回の放送を、「あしたのコンパス」のサイトで、視聴することができます。

南海電鉄で車掌が不適切アナウンス「外国人多くご不便を」
http://www.houdoukyoku.jp/pc/archive_play/00042016101201/4

【気まぐれ写真館】 すっかり、あきのそら

もしも、夏目漱石が”隣人”だったら!?

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面白く見てきたNHK土曜ドラマ『夏目漱石の妻』が、間もなく終了する。全4回はちょうどいいけど、あっという間だ。原作は、妻・鏡子の語りを筆録した『漱石の思い出』(文春文庫)である。

このドラマを見ていて、漱石夫妻が暮らしている「家」に興味がわいた。というか、単純に「いいなあ、こういう家」と思ったのだ。かつては普通に散見できた日本家屋だが、今どきは、そうはいかない。

漱石が東京・千駄木で暮らしたのは、英国留学から戻った直後の明治36年から、日露戦争をはさんで39年の年末までだ。東京帝国大学や第一高等学校の教壇に立ちながら、徐々に作家へと移行していく時期だ。この間に書いたのが『吾輩は猫である』『坊ちゃん』『草枕』などである。

森まゆみさんは、著書『千駄木の漱石』(筑摩書房)の中で、漱石を自らの故郷に迎えた“隣人”の如く、その軌跡を丁寧に追っていく。借家だった住居の歴史。生真面目に準備された講義。帝大での学生たちとの軋轢。寺田寅彦など弟子たちとの交流。そして家庭における夫や父としての漱石。

中でも興味を引くのが、小説『道草』で描かれた人間模様と、漱石とその周辺にいる実在の人々との重なり具合。作品は実在の姉、兄、妻、養父などとの確執を浮き彫りにしているのだ。森さんは『吾輩は猫である』を滑稽小説にして近隣憎悪小説、また『道草』を心理小説にして近親憎悪小説と呼んでいるが、卓見である。

さらに本書では、妻である鏡子との“せめぎ合い”も読みどころの一つだ。神経質で夢見がちな夫とヒステリーの妻がいる環境から、なぜいくつもの名作が生まれたのか。「僕は世の中を一大修羅場と心得ている」という漱石自身の言葉が実に味わい深い。

【気まぐれ写真館】 週末のキャンパス 夕景

書評した本:  『永六輔の伝言~僕が愛した「芸と反骨」』ほか

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「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。

矢崎泰久:編
『永六輔の伝言~僕が愛した「芸と反骨」』
集英社新書 799円

今年7月7日、永六輔が83歳で亡くなった。草創期からテレビに携わり、放送作家、作詞家、タレント、また作家としても活躍した異能の人だ。旅が日常で、行った先で見たこと、聞いたこと、出会った人のことを電波と活字で伝え続けた。60歳で上梓した『大往生』(岩波新書)は大ベストセラーとなる。そこには有名・無名を問わず、永の気持ちを揺り動かした、他者の言葉と人生が並んでいた。

矢崎泰久:編『永六輔の伝言~僕が愛した「芸と反骨」』(集英社新書)は、元『話の特集』編集長である矢崎が、永に”成り代わって”語る自分史であり、有名人たちとの交友録である。
 
たとえば昭和22年、14歳の永は、まだ焼け跡の残る浅草で、鉄くずなどを集めて生計を立てていた渥美清を知る。やがてコメディアンとなった渥美と、永が作・構成を手がけた『夢であいましょう』(NHK)で一緒に仕事をすることになる。人気者になっても、ひけらかすことのない渥美はまた、最期まで義理堅い人だった。永は生前、渥美のことを書いたことがない。それは親しさの証しだ。

他に登場するのは坂本九、三波春夫、淡谷のり子、やなせたかし、井上ひさし。「中年御三家」を組んだ小沢昭一と野坂昭如。そして作曲家の中村八大もいる。中でも貴重なのが三木鶏郎をめぐる回想だ。戦後、その社会風刺がGHQや政府から煙たがられた、伝説のラジオ番組『日曜娯楽版』(NHK)を作った男の仕事ぶりが活写されている。


加藤陽子 
『戦争まで~歴史を決めた交渉と日本の失敗』
朝日出版社 1836円

評判を呼んだ『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』の姉妹編。本書では3つの歴史的な「交渉」と「選択」を検証する。満州事変とリットン報告書、日独伊三国軍事同盟条約、そして太平洋戦争と日米交渉だ。平易な語り口と立体的視点で戦争の本質に迫る好著。


石光 勝 
『老いの風景~物語で経験する「生老病死」』 
中央公論新社 1836円

現在82歳の著者はテレビ東京の元常務取締役。自身の老いと対峙しながら、文学や映画を通じて生老病死と愛を探っていく。テキストは深沢七郎『楢山節考』、丹羽文雄『厭がらせの年齢』、ヘミングウエイ『老人と海』、そして山田洋次監督の『東京家族』などだ。


山田 薫 
『気がつけば被告?イライラ社会の法律トラブル』
日経ビジネス人文庫 842円

訴訟の当事者となる自分を想像できるだろうか。多くの人は小説やドラマの一場面だと思っているはずだ。しかし本書を読めば被告席は遠くないことがわかる。電車内でのケンカ、スキー場での接触事故、中古マンションの売買など、豊富な事例で身を守る術(すべ)を知る。

(週刊新潮 2016.10.06号)

やったね!日ハム 日本シリーズだ!!

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大谷、165キロ プロ野球最速を更新!

かつて、「過激派活動家」という若者たちがいた

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本のサイト「シミルボン」に、以下のコラムを寄稿しました。

https://shimirubon.jp/columns/1675071


かつて、「過激派活動家」という若者たちがいた
1970年代の半ば頃、渋谷にあった木造2階建のアパートに住んでいた。JR渋谷駅から、センター街を抜けて細い路地に入り、しばらく歩く。NHK放送センターが見えてくれば、我がアパートはもうすぐそこ・・・そんな場所にあった。

トイレ・ガス・水道が共同という、今ではなかなかお目にかかれなくなったアパートだ。1階にも2階にも部屋が3つ。私の部屋は2階の4畳半で、他の部屋は、隣が同じ4畳半、向かいに6畳間があった。


●不思議な隣人

住んでいた5年間に、隣と、向かいの部屋の住人は何度か入れ替わった。その6畳のほうに、20代後半と思しきカップルが住んでいた時期がある。この男女が学生なのか、社会人なのか、よく分からなかった。というのは、昼間いたかと思うと、夜になっても朝になっても帰ってこなかったり、その逆で夜しかいなかったりするのだ。

古い木造だし、トイレも共同だから、隣も向かいも、その動きは何となく気配でわかる。この6畳には、ときどき何人もの男女が遊びに(?)来ていた。それも必ず夜だ。

外へ出るには階段を降りて、そこで靴を履くようになっていたが、この来客たちは靴を部屋に持ち込んでいるらしく、部屋からは複数の人の話し声が聞こえてくるのだが、階下の入り口に靴は置かれていなかった。

不思議なことに、彼らが住んでいた1年の間、引っ越してきた当時以外に、廊下でばったり会うことはほとんどなかった。顔もほとんど覚えていない。また、いつ引っ越していったのかも分からない。ある日、消えていたのだ。

大学を卒業して社会人になった頃、勤めていた会社に、いきなり警察が私を訪ねてやってきた。特に悪さをした記憶もないので平気だったが、いったい何の用事だろうとは思った。

それは刑事だったが、聞かれたのは、アパートの向かいの部屋に住んでいた例の男女のことだった。どんな人たちだったか。よく知りません。部屋で何をしていたか。分かりません。話したことはあるか。ありません。全部、本当のことだ。で、ものの5分でおしまいだった。

刑事は、ほとんど詳しい話をしてくれなかったが、その口ぶりから、あのカップルが「過激派活動家」だったこと。指名手配されていたこと。ときどき来ていたのは、彼らの仲間だったこと、などが分かった。しかし、その後、刑事が再び来たこともないし、警察から問い合わせがあったこともない。

もうずっと長く忘れていたが、彼らはどうなったんだろう。今、どうしているんだろう。


●「ゲバルト時代」という時代

そんな40年も前のことを思い出したのは、中野正夫さんが書いた『ゲバルト時代 SINCE1967-1973 あるヘタレ過激派活動家の青春』(バジリコ)を読んだからだ。

1948年生まれの中野さんは、高校時代から「ゲバルト活動」を始め、浪人してからも学生運動のいくつかのセクトと関わる。大きな流れとしては、ブントから赤軍へということになるが、その後、逮捕されたりしながら73年まで活動家だった人だ。

この本は、活動家時代のいわば回想録になるが、類似のものが思いつかない面白さをもっている。それは、一にも二にも、中野さんの考え方というか、思想、スタンスがユニークだからだ。

それは自らを「ヘタレ過激派活動家」と呼んでいることでもわかる。主義、主張があっての活動参加ではない。「何か面白そうジャン」というノリで活動に入っていってしまい、基本的にそのまま終わりまで行ってしまう。

羽田、佐世保、新宿、日大、東大など、数々の有名な闘争の「現場」にいて、制圧する側とぶつかり、相手をぶちのめしたり、自分もケガをしたり、逮捕されたりもするのだが、どこまでも不思議なアマチュア精神(?)の人なのだ。

過激派活動家といわれる人の実生活、実活動が、こんなに率直に、リアルに語られたことが今まであっただろうか、と思う。自分が体験、もしくは近くで見聞きした活動の話はもちろん、活動家たちの男女関係にいたるまでが、淡々と、そしてユーモアもまじえて回想されている。

この本には、(中野さんが言うところの)「革命ごっこの親玉たち」や「革命ごっこ」経験者たちの多くに見られる、自己満足、自己陶酔、自己正当化や欺瞞がない。それを最も嫌っているからだろう。

中野さんは書く。

 「人は言ってることより、やっていることを見ろ!」

 「実際は、『理論』や『理念』では人は動いていないという現実」


●「いちご白書」をもう一度

ああ、そういえば、映画『いちご白書』が公開されたのは、60年代と70年代の境目、1970年だ。

キム・ダービーが演じた女子学生が可憐だった。こんな女の子がバリケードの中にいたら、つい闘争に参加しちゃう青年がいてもおかしくない。

あらためて、この映画は“時代の空気感”のようなものをフリーズドライしているところに価値があると思う。

『いちご白書』公開から5年後の1975年に、ユーミンが作ってバンバンが歌った、『「いちご白書」をもう一度』がヒットする。

歌詞の中に、それまで無精ひげと髪を伸ばしていた主人公が就職することを決めた時に髪を切り、恋人に「もう若くないさ」とやや自嘲気味に言い訳するシーンがある。

この時代、学生から社会人になるということは、そういう一面も含んでいたのだ。

60年代後年から70年代にかけて、この国の若者たちに何があったのか。それは現在と、どうつながり、もしくはつながっていないのか。それを考えるのに、この“青春記”は外せない。



【気まぐれ写真館】 秋なのに、気温25度

ドラマ「砂の塔」は、本邦初の“階層サスペンス”!?

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日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、TBSのドラマ「砂の塔~知りすぎた隣人」について書きました。


TBS系「砂の塔~知りすぎた隣人」
本邦初の“階層サスペンス”か!?
すごいな、タワマン。金曜ドラマ「砂の塔~知りすぎた隣人」(TBS系)の舞台であるタワーマンションのことだ。

引っ越してきたばかりの主婦・亜紀(菅野美穂、好演)は、高層階に住むセレブ主婦たちの言動に戸惑っている。上の階ほど部屋の値段が高いから、住んでいる階数でその家庭の年収や生活レベルも分かるというのだ。

特にリーダーである寛子(横山めぐみ)の選民意識がすさまじく、低層階の住人は「私たちとは民度が違う」と言い放つ。地位や財産や職業などで区分される「社会階層」と、建築物の階数を指す「階層」を重ねて見ているのだ。

背景には格差社会、階層社会といわれるこの国の現状があるが、これって、本邦初の“階層サスペンス”か!?

一方、タワマンの周辺では幼児の連続失踪事件が起きている。いずれも子育てをおろそかにした母親の子供が被害者だ。

ドラマの冒頭、いきなり犯人かと思わせるような描写で登場したのが弓子(松嶋菜々子)。謎めいたアルカイックスマイルと、何もかも知っていそうな黒幕風たたずまいが結構怖い。例の家政婦を彷彿とさせて、松嶋、久方ぶりのハマリ役かも。

このドラマは、「黒の女教師」や「アリスの棘」などを手がけてきた池田奈津子のオリジナル脚本だ。ダークヒロイン物を得意とするその腕前、大いに期待したい。

(日刊ゲンダイ 2016.10.19)

書評した本: 春日太一 『鬼才 五社英雄の生涯』ほか

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「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。

春日太一 『鬼才 五社英雄の生涯』
文春新書 994円

『三匹の侍』でテレビ時代劇の既成概念を打ち破り、『鬼龍院花子の生涯』『極道の妻たち』などの大ヒット映画を生んだ五社監督。毀誉褒貶の激しい63年の軌跡を、作品分析、本人の言葉、そして取材による事実の掘り起こしで見事に再構築した、熱い快作である。


武田砂鉄 
『芸能人寛容論~テレビの中のわだかまり』
青弓社 1,728円 

芸能人に対して誰もが抱くモヤモヤ感。それを払拭するどころか、もっと深い闇へと引きずり込む、独断と偏見の書だ。松本人志が語る時事問題、マツコ・デラックスの自由度、池上彰依存社会など、著者は隠れた実相を言語化していく。テレビが10倍楽しめる1冊。

(週刊新潮 2016年10月13日号)

【気まぐれ写真館】 秋雲

フジ月9「カインとアベル」の”チープ感”は払拭できるのか?

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日刊ゲンダイで、フジテレビの月9ドラマ「カインとアベル」について、コメントしました。


フジテレビ月9「カインとアベル」
初回史上最低
8.8%の大ショック
放送枠の消滅もウワサされるフジテレビ「月9」の凋落が止まらない。17日放送の「カインとアベル」が初回の平均視聴率8・8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。昨年7月期「恋仲」の9.8%を下回り、初回視聴率の最低を更新したのだ。

主演はジャニーズの人気グループHey!Say!JUMPの山田涼介(23)。旧約聖書の「創世記」がモチーフで、優秀な兄に対し、複雑な気持ちを抱く弟の“成長”を描いたヒューマンラブストーリーだ。

ドラマを見た上智大教授の碓井広義氏(メディア論)はこう言う。

「一言で言えば、“チープ感”でいっぱいです。まず、主人公の山田君に『月9』を引っ張るだけの存在感がない。桐谷健太以外のキャストにも“凡作感”が漂っています。物語も兄弟の葛藤なのか、恋愛なのか、ミステリーなのか、何を描きたいのかハッキリしません。予算削減の影響でしょう、セットもまるで“昼ドラ”のよう。このままでは第2話以降、視聴率が急落する可能性は高いです」

■局内に吹き荒れる亀山社長の悪評

今期のドラマは、まさにフジの“独り負け”だ。初回視聴率をみると、米倉涼子主演のテレ朝「ドクターX」が20.4%という驚異の好発進。織田裕二主演のTBS「IQ246」は13.1%、石原さとみ主演の日テレ「地味にスゴイ!」も12.9%の好スタートだ。フジで“10%超え”しているドラマはひとつもない。

実はフジ社内の雰囲気も開局以来、最悪だという。上司のパワハラ疑惑や心を患う社員など“悪い話”が後を絶たないのだ。視聴率の低下とともに業績も悪化していて、今年の夏のボーナスはすでに3割カットされている。「楽しくなければテレビじゃない」を旗印に、わが世の春を謳歌したのも今は昔。最近ではテレビ東京の後塵を拝すことも多い。一体“元凶”は何なのか。社員らが異口同音に言うのが、亀山千広社長の悪評だ。ある社員は不満をこうブチまける。

「フジの幹部が集まる定例会があるのですが、そこで亀山さんが『今年の冬のボーナスをゼロにしろ』『リストラを検討しろ』と言い出しているらしいんです。業績を改善するために数字を作ろうとしているのですが、まずは自分自身がここまでの低迷を招いた責任を取れという話です」

失敗のツケを社員に押しつけるためのコストカットなら誰でもできる。フジにまず必要な“処方箋”は、成功体験から抜け切れない“亀のクビ”のすげ替えじゃないか。

(日刊ゲンダイ 2016.10.20)

読んでも読んでも読み切れないシアワセ

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書評界(?)の巨匠、<狐>こと村山修さんが亡くなったのは2006年のことだ。もう10年が過ぎたわけだが、今でも時々、本棚から取り出しては読んでいる。

たとえば、「単行本未収録書評を増補」して出された、『もっと、狐の書評』(ちくま文庫)も、そんな一冊だ。

「日刊ゲンダイ」に<狐>名義で書かれたものは、その後、何冊もの単行本になっている。この本では、それらから選抜した書評に「未収録もの」を加え、「オリジナル編集」しているのだ。その数、150本。

基本的には、それぞれ約800字1本勝負だ。決して長くはない。いや、短いはずなのに、かなり”読みで”がある。中身が濃い。

それは、本の内容を凌駕するような、山村さんの見識や博識が背景にあるからだ。もっと乱暴にいえば、選ばれた本、それ自体がもつ価値以上のものが、山村さんによって付加されたような・・・。

いつも、<狐>の書評の「書き出し」に唸っていた。どきどきした。書評の、その先が読みたくなった。

「読めども読めども読み切れない」 (山口昌男『「敗者」の精神史』)

「おそろしい古典である」 (小西甚一校注『一言芳談』)

「大学紀要的(アカデミック)ではない。ずっと実践的(プラクティカル)」  (田中優子『近世アジア漂流』)

「伝記文学の粋である」 (ツヴァイク『ジョゼフ・フーシェ』)


山村さんの書評を読んで、そこで取り上げられている本を、ばりばり読んだかといえば、なかなかそうはいかない。

ジャンルや内容が、興味・関心から遠いものもあれば、難しそうで敬遠したくなるものも多い。でも、読みたくなったし、読んだような気なった。そういう本の存在を知るだけでも収穫だった。

この本の中の、初収録の文章の、次のような一節が好きだ。

   「書評者は伝達者だと思う。
    肝心なのは、
    本を閉ざして自己主張することではなく、
    本を開いて、
    そこに書かれていることを
    伝えることのはずです」

<狐>の書評は、まさに、そのようにして、ここにある。

“ちょっとダーク”な味わいの秋ドラマ

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秋ドラマがスタートした。『ドクターX』、『相棒』、『科捜研の女』(いずれもテレビ朝日系)といった安心の定番もいいが、ひと癖ある新作も健闘している。共通するのは、“ちょっとダーク”な秋の味だ。


●タワマンが舞台の“階層サスペンス”『砂の塔~知りすぎた隣人』

すごいぞ、タワマン。怖いぞ、タワマン。金曜ドラマ『砂の塔~知りすぎた隣人』(TBS系)の舞台である、50階建ての高級タワーマンションのことだ。

引っ越してきたばかりの主婦・亜紀(菅野美穂、好演)は、高層階に住むセレブ主婦たちの言動に戸惑っている。上の階ほど部屋の値段が高いから、住んでいる階数でその家庭の年収や生活レベルも分かるというのだ。

特に、リーダー格である社長夫人・寛子(横山めぐみ)の”選民意識”がすさまじい。なにしろ低層階の住人を指して、「私たちとは”民度”が違う」とまで言い放つのだから。

地位や財産や職業などで区分される「社会階層」と、建築物の階数を指す「階層」を、まんま重ねて見ているのだ。おいおい、逃げ場のない集合住宅で階層差別って・・・。

背景には格差社会、階層社会といわれるこの国の現状があるが、このドラマ、もしかしたら日本初の“階層サスペンス”か!?

一方、タワマンの周辺では幼児の連続失踪事件が起きている。いずれも子育てをおろそかにした母親たちの子供が被害者だ。

ドラマの冒頭、いきなり犯人かと思わせるような描写で登場したのが、フラワーアレンジメントのプロ・弓子(松嶋菜々子)である。しかも、高級高層マンションで隠しカメラって、シャロン・ストーン主演の映画 『硝子の塔』か(笑)。

謎めいたアルカイックスマイルと、何もかも知っていそうな黒幕風たたずまい。じっと住人たちを見つめる表情が、結構怖い。例の家政婦を彷彿とさせて、松嶋、久方ぶりのハマリ役だ(広告代理店の吉良部長には困った)。

脚本は、『黒の女教師』や『アリスの棘』などを手がけてきた池田奈津子のオリジナルだ。ダークヒロイン物を得意とするその手腕には、大いに期待したい。ただし、あまりにもエグすぎると、視聴者も引いてしまうだろう。毎回の“後味”も、脚本家の芸のうちだ。


●テレビ界・芸能界を巧みにデフォルメ『黒い十人の女』

面白い題材を掘り起こしたものだ。ドラマ『黒い十人の女』(日本テレビ系)である。ベースは1961年に公開された市川崑監督の同名映画。このテレビ版は、9人もの愛人を持つドラマプロデューサーが、裏で手を組んだ女たちと対峙するブラックコメディだ。

今回、主人公であるプロデューサー・風松吉役には船越英一郎が起用された。愛人たちの間を遊泳する姿が、妙に(笑)、いや見事にハマっている。55年前の映画では、英一郎の父・船越英二(『時間ですよ』で銭湯の番台に座っていた姿も懐かしい)が飄々と演じていた。

また、「十人の女」たちのキャスティングも、見どころのひとつだ。一筋縄ではいかない、したたかな妻が若村麻由美(こういうの、上手いなあ)。愛人として水野美紀(舞台女優)、佐藤仁美(ドラマAP)、MEGUMI(脚本家)、成海璃子(テレビ局受付嬢)、平山あや(メイク)、そしてトリンドル玲奈(若手女優)もいる。女同士のバトルと、不思議な共闘が笑える。

それにしても船越P、モテ過ぎだろう。しかも仕事がらみの女性にばかり、手を出し過ぎ!

脚本は、『素敵な選TAXI(センタクシー)』(フジテレビ系)で、「第3回市川森一脚本賞」奨励賞を受賞したバカリズムだ。単発ドラマ『かもしれない女優たち』(同)も、なかなかの出来だった。

このドラマでは、原作の基本設定(9人の愛人&妻という「黒い十人」)を生かしながら舞台を現代に移し、今どきのテレビ界・芸能界の生態を巧みにデフォルメして描いていく。

先日も、水野美紀演じる舞台女優の活動を「情熱大陸」風に見せて、思いきり笑わせてくれた。また、愛人の立場に不満をもつ成海とトリンドルが、それぞれに若い男との浮気(?)を敢行。特に成海は、相手がまたもや妻帯者で大騒動となった。

今年は、芸能界を含む現実世界で、不倫騒動が続発している。せっかくのフィクション、また午前零時近くの深夜ドラマであることを踏まえ、脚本も、演出も、一層ディープに攻めてもらいたい。

(Yahoo!ニュース「碓井広義のわからないことだらけ」 2016.10.22)

書評した本: 勝目 梓 『異端者』ほか

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「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。

勝目 梓 『異端者』
文藝春秋 1836円

今年84歳を迎えた官能文学の大御所が、タブーとされる異端の性愛を描く。主人公は、南房総の古いリゾートマンションで暮す新垣誠一郎。老境を迎えた男が、自ら封印してきた過去の秘事をふり返る。行間から立ち昇るエロスの香りは、勝目マジック健在の証しだ。


坂口昌弘 
『ヴァーサス日本文化精神史~日本文学の背景』
文學の森 2430円

空海と親鸞、芭蕉と一茶、小林秀雄と山本健吉など、16の対比(ヴァーサス)によって日本文化・文学を貫く精神を探ろうという大胆な試みだ。たとえば釈迦とキリストの章では慈悲と愛、さらに「戒」が検討されていく。異質性と同質性から見えてくるものは何か。

(週刊新潮 2016.10.20号)

”激戦地”日曜19時に参戦する「フルタチさん」

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週刊新潮で、フジテレビが11月に開始する新番組「フルタチさん」についてコメントしました。


「真田丸」相手では勝ち目がない「フルタチさん」
この3月で12年務めた「報道ステーション」のキャスターを降板し、最近ではバラエティに引っ張りだこの古舘伊知郎(61)。

「面白いことを言いたい人間なのに、それを一切封印されたのがキツかった……」

と、降板から半年が過ぎてもいまだ続ける“報ステ”への恨み節。10月7日放送の「さんまのまんまSP」(フジテレビ系)にゲストとして出演したときのこと。

「よっぽど報道番組はストレスだったんでしょうね。そこから解き放たれて、水を得た魚のような軽妙なしゃべりでした。もっとも、よくよく聞くと、12年間も報道番組をやったわりには、中身のある話ではなかったのですが」

とは上智大学の碓井広義教授(メディア論)だ。

その古舘に念願のレギュラー番組が決まった。2時間枠のトーク番組「フルタチさん」(日曜19時、フジ系)だ。

他局を見渡せば、19時台はTOKIOの「ザ! 鉄腕! DASH‼」(日テレ系)、「モヤモヤさまぁ~ず2」(テレ東系)という人気番組に加え、TBSではロンドンブーツ1号2号のクイズ番組も復活、テレ朝は人気番組「アメトーーク!」のゴールデン版をスタートする。さらに20時からはNHK大河「真田丸」という激戦地。

「視聴者が離れたフジというハンデに加え、他局は若い人向けの番組が多いので、『フルタチさん』の視聴者は高めの年齢層になるでしょうね。しかし、その層は20時になったらNHKに。決して楽じゃない」(同)

上手くいかなければ、フジへの恨み節も始まるか。

(週刊新潮 2016年10月20日号)

姿を現した新校舎 2016.10.25

やっぱり異次元、大谷選手

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広島では、日ハムの連敗だった日本シリーズ。

このまま王手か、カープ。

いやいや、必ずや札幌で巻き返し、と思っていた。

しかし、試合経過は結構シビアで、逆転と同点が続き、おいおい大丈夫か、という10回裏。

やっぱり異次元の大谷がキメてくれました。

すごいなあ、大谷。

いやあ、よかった、よかった。

石原さとみのフルスロットル演技「校閲ガール」

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日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、日テレのドラマ「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」について書きました。


石原さとみのフルスロットル演技が
すべてを凌駕している
水曜ドラマ「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」(日本テレビ系)の舞台は、春クールの「重版出来!」(TBS系)と同じ出版界。しかも出版の仕事としてすぐ思い浮かぶ編集ではなく、校閲という設定が特色だ。

開始前、「校閲は果たしてドラマになるのか?」という不安はあった。基本的には目立つ存在ではない。本や雑誌の原稿の誤字・脱字、事実誤認などをチェックする、重要ではあるが縁の下の力持ち的役割だからだ。

しかし始まってみれば、石原さとみのフルスロットル演技がすべてを凌駕している。校閲の守備範囲を逸脱するような仕事ぶりも、リアリティーうんぬんの意見はあるだろうが、過剰と純情こそが悦子のキャラクターだ。

先週も、校閲部の先輩・藤岩(江口のりこ)を「鉄のパンツ」とからかった若い女性社員たちを、悦子が校閲で得た知識を援用して撃退していた。悦子の武器は元気だけではないのだ。

近年の石原は、松本潤や山下智久の相手役、松下奈緒の妹役といった立場で、完全燃焼とは言えなかった。だが今回は、「鏡月」のCMで表現した大人の女性の可愛らしさも、「明治果汁グミ」で見せたコメディエンヌの才能も、思う存分発揮できる。もしかしたらこのドラマ、石原の“セカンドデビュー”ともいえる、代表作の一本になるかもしれない。

(日刊ゲンダイ 2016.10.26)

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