テレビ番組もそうですが、CMは時代を映す鏡です。その時どきの世相、流行、社会現象、そして人間模様までをどこかに反映させています。
「うーん、あるある、そういうこと」という共感や、「もしかしたら、こういうの、待ってたかも」という潜在的な期待感に応えるCMは、やはり目を引きます。
この夏、流されているCMの中から、注目作を選んでみました。
ジョージア「海の家従業員」編
山田孝之さんはカメレオン俳優だ。ある時は脱力系ヒーロー・勇者ヨシヒコ、またある時はコワモテの闇金・ウシジマくんと化す。そんな山田さんが海の家で焼きそばを売っている。なんとも地道な商売だ。
しかし、誰にも魔がさす時はある。うっかりミスってやつだ。買いに来たのは笑顔と水着姿が魅力的な佐野ひなこちゃん。ふいに身をかがめ、山田さんを見上げて聞く。「暑くないですか?」
その瞬間、「うむ、いい娘だ」と山田さんは思ってしまった。冷えた缶コーヒーを「オマケであげるよ」と鷹揚なところを見せてしまう。しかも目は胸元に釘づけだ。
ところが突然、カレシが現れる。これがまた絵に描いたようなチャラ男だ。こいつにお礼を言われた山田さん、「お前にじゃねえよ!」と声には出さず憤る。その怒りと自嘲を押し殺した笑顔が絶品だ。
この夏も、”うっかり男”と”ちゃっかり娘”の対決が各地で展開されているだろう。でも、オトナの男は勝ってはいけない。山田さんはそう教えている。
DODA「チャップリン」編 ・「キング牧師」編
その演説は映画「独裁者」の終盤に置かれている。約3分半のワンカットだ。
ファシズムの国の独裁者と間違われた床屋(チャップリン)が、兵士たちに向かって呼びかける。「君たちは機械ではない。家畜でもない。人間なんだ!」と。
CMには現在の仕事と将来に迷いを抱えた青年、綾野剛さんが登場する。鏡に映る自分を見つめた時、チャップリンの声が聞こえてくるのだ。
「君たちには力がある。人生を自由で美しく、素晴らしい冒険に変える力が!」。チャップリンにそこまで言われたら、綾野さんじゃなくても転職を決意してしまいそうだ。
「キング牧師」編も、「友よ。今こそ、夢を見よう」で始まるメッセージが強烈なインパクトで迫ってくる。姿こそ見えないが、肉声の背後にある彼らの思想と行動、つまり生き方を想起するからだ。
閉塞の時代こそ、行動せずに悔やむより、一歩踏み出す勇気を。「戦え!自由のために」の声は転職以外の岐路に立つ者の背中も押してくれる。