(綿井健陽氏、砂川浩慶氏、坂本衛氏)
テレビの制作現場に
「自主規制」「忖度」が定着してきている
〜ジャーナリストら、与党の「放送法」解釈を批判
15日、立教大学社会学部准教授の砂川浩慶氏、ジャーナリストの坂本衛氏・綿井健陽氏が「安倍政権とメディア」と題して会見を開いた。
3氏らは同日付で『「放送法の誤った解釈を正し、言論・表現の自由を守る」ことを呼びかけるアピール』を公表(文末に全文を掲載)。賛同人にはマッド・アマノ氏、是枝裕和氏、篠田博之氏、柴山哲也氏、永田浩三氏、藤田真文氏、田島泰彦氏、白石草氏、碓井広義氏らジャーナリスト・メディア研究者が名を連ねている。
3氏は、与党のテレビ報道への姿勢について「放送法の解釈がデタラメで間違っている。政権与党からテレビ放送の自由、自主独立を守る法律だが、テレビ放送を取り締まる法律であるかのように思われている」と主張。一方、テレビ制作の現場でも、"自主規制"や"忖度"の問題が深刻化していることも明かした。
このうち、放送法の専門家である砂川氏は「こういうことをする国は民主主義国家とは呼べない」と批判、「日本は先進国で唯一、放送免許を監督しているのが行政(総務省)。総務省は自民党に対してこそ行政指導をすべきだ」と訴えた。
また、実際にテレビ番組の制作にも携わっているという綿井氏は、会見にあたってニュース番組に携わる記者、デスク、プロデューサーらに現状をヒアリング、「与党に批判的な報道をする番組に対して、政治家だけでなく視聴者からも"偏向報道をやめろ""公平中立な報道をしろ"という抗議が非常に多く寄せられており、その結果、"後でごちゃごちゃ言われるのが嫌だから、抗議の際のエクスキューズとして番組に政府の側の意見をとりあえず入れとこう"という自主規制・忖度が制作者に定着してきている」と指摘。
制作現場の現状を「以前は権力に対してメディアと市民の同じ側にいたのが、今は政治権力と市民を名乗る人たちが一体となっていて、そこにメディアが対抗する構図になっている。いわばメディアが挟み撃ちにあっている状態」と表現した。
綿井氏はスタッフたちに対し「もし政治家から"放送法を守りなさい"と言われた時は"お前こそ憲法を守れ"と言い返せばいい、もし"公平中立な放送をしなさい"と言われた時は、"あなたこそ公平中立な政治をしなさい"と言い返せばいい」とアドバイスしているという。
一方で、「弾圧・圧力の中でも意気盛んなスタッフがいることも強調しておきたい。しかしそれも何かの拍子に足を掬われる可能性は充分ある。」「放送法を"取り締まる"という法律に変えようと言う動き、"BPO潰し"という動きが今後出てくるのではないかと危惧している」と述べた。
(BLOGOS 2015年12月16日)
「放送法の誤った解釈を正し、
言論・表現の自由を守る」ことを
呼びかけるアピール
テレビ放送に対する政治・行政の乱暴で根拠のない圧力が目に余ります。
自民党筆頭副幹事長らによる在京テレビ報道局長への公平中立の要請、総務大臣によるNHK『クローズアップ現代』への厳重注意、自民党情報通信調査会によるNHK経営幹部の事情聴取、同党勉強会で相次いだ『マスコミを懲らしめるには広告収入がなくなるのが一番。経団連に働きかけよう』といった政治家の発言、政治・行政圧力を批判したBPOの意見書を真摯に受け止めない安倍晋三首相、菅義偉官房長官、谷垣禎一自民党幹事長の発言など。
こうした政治・行政のテレビ放送に対する圧力が、テレビの報道を萎縮させ、人びとに多様なものの見方を伝えるテレビという表現の場を狭め、日本の「言論・表現の自由」をいちじるしく損なっている、と私たちは考えます。
とくに政治家や行政責任者が、日本の放送を規定する「放送法」の趣旨や意義を正しく理解できず、誤った条文解釈に基づく行動や発言を繰り返していることは、大問題です。
放送法は、第1条で放送全体の不偏不党・真実・自律を保障することを公権力に求め、政治・行政の放送への介入を戒めています。放送法は「放送による表現の自由を確保すること」を目的とする法律であり、「不偏不党」や「中立」を放送局に求めてはいません。
放送法第4条1項2の「政治的な公平」を番組ごとに要求したり、ある番組を放送法第4条違反と決めつけたりすることは、まったくの誤りです。『総理と語る』のように首相の一方的な主張を伝える番組も、ある法律に反対するキャスターの一方的な主張を伝える番組も、どちらもテレビに存在してよいのです。その一方だけを放送法違反として排除するのは愚かです。
およそ先進的な民主主義国では考えられない、錯誤に満ちたマスメディアへの介入によって、自由な民主主義社会を危うくしてはなりません。
政治家や行政責任者には、「表現の自由」を謳う放送法を正しく解釈して尊重し、テレビ放送への乱暴で根拠のない圧力を抑制することを、強く求めます。政治家や行政責任者は、放送が伝える人びとの多様な声に耳を傾け、放送を通じて政策を堂々と議論すべきです。
テレビやラジオには、「表現の自由」を謳う放送法を尊重して自らを厳しく律し、言論報道機関の原点に立ち戻って民主主義を貫く報道をすることを、強く求めます。放送局は、圧力を恐れる忖度や自主規制を退け、必要な議論や批判を堂々と伝えるべきです。
私たちは「放送法の誤った解釈を正し、言論・表現の自由を守る」ことを呼びかけるアピールを通じて、問題の所在を内外のマスメディアに広く訴え、メディア関係者のみならず多くの人びとに、言論・表現の自由について真剣に考え、議論してほしいと願っています。
●賛同人
松本功(ひつじ書房編集長)/マッド・アマノ(パロディスト)/岩崎貞明(『放送レポート』編集長)/是枝裕和(映画監督)/小田桐誠(ジャーナリスト)/篠田博之(『創』編集長)/柴山哲也(ジャーナリスト)/上滝徹也(日本大学名誉教授)/桧山珠美(フリーライター)/田中秋夫(放送人の会理事/日本大学藝術学部放送学科講師)/高橋秀樹(日本放送協会・常務理事/メディアゴン・主筆/日本マス・コミュニケーション学会)/ジャン・ユンカーマン(ドキュメンタリー映画監督/早稲田大学招聘研究員)/壱岐一郎(元沖縄大学教授/九州朝日放送)/永田浩三(ジャーナリスト/武蔵大学教授)/古川柳子(明治学院大学文学部芸術学科教授)/真々田弘(テレビ屋)/岡室美奈子(早稲田大学教授/演劇博物館館長)/隅井孝雄(ジャーナリスト)/小玉美意子(武蔵大学名誉教授/メディア研究者)/川喜田尚(大正大学表現学部教授)/諸橋泰樹(フェリス女学院大学教員)/高瀬毅(ノンフィクション作家)/中村登紀夫(日本記者クラブ/放送批評懇談会/日本民放クラブ/日本エッセイスト・クラブ)/大橋和実(日本大学藝術学部放送学科助手)/藤田真文(法政大学社会学部メディア社会学科教授)/兼高聖雄(日本大学藝術学部教授)/石丸次郎(ジャーナリスト/アジアプレス)/田島泰彦(上智大学教授)/白石草(OurPlanetTV)/小林潤一郎(編集者/文筆業)/須藤春夫(法政大学名誉教授)/谷口和巳(編集者)/茅原良平(日本大学藝術学部放送学科専任講師)/海南友子(ドキュメンタリー映画監督)/野中章弘(ジャーナリスト/早稲田大学教員)/鎌内啓子(むさしのFM市民の会運営委員)/豊田直巳(フォトジャーナリスト/映画『遺言~原発さえなければ』共同監督)/碓井広義(上智大学文学部新聞学科教授)/八田静輔(民放労連北陸信越地方連合会元委員長)